サマリー
◆日米間の関税交渉は合意に達したが、これを反映した米国の対日平均関税率は12.3%と試算される。7月の14.5%からは低下したものの、年初で1.5%だったことを踏まえればなお高水準にある。トランプ米政権の高関税政策(トランプ関税)による対米輸出などへの影響は日米合意後も警戒が必要だ。
◆日本の実質輸出は全体で見れば底堅く推移しているものの、7月以降はトランプ関税の影響によって自動車関連財が大きく減少し、8月は2024年11月以来の低水準となった。現地生産の強化や価格競争力の低下が影響したとみられるが、今後は対日自動車関税の引き下げが価格面での悪影響を緩和するだろう。もっとも、対米自動車輸出は相対価格よりも米国内需要の影響を受けやすい。米国では雇用情勢が悪化し、インフレも加速しており、日本からの輸出にも悪影響を与える可能性がある。
◆日本の対米名目輸出額は直近の2025年8月で前年比▲13.8%だったが、直近並みの減少率(▲15%)を想定し、製造業の粗付加価値額(GDP)への影響を産業連関表などで試算すると、影響が最も大きい業種は輸送用機械で▲2.5%だ。次いで一般機械で大きい(▲1.5%)。これらは製造業の中でも従業員数が比較的多く、悪影響が雇用環境に及ぶことも懸念される。他方、当社では2026年の実質設備投資を前年比+1.0%と見込んでいるが、対米輸出▲15%のケースでは同+0.6%へと低下し、対米輸出の下振れを最大限想定した▲40%のケースでは同▲0.1%と6年ぶりのマイナスに転じる。
◆当社の経済見通しと整合的な春闘賃上げ率は、2026年で5.3%程度、2027年で4.2%程度と推計される(連合集計値ベース)。仮に、対米輸出が▲40%になり賃金・物価上昇の循環が弱まれば、2027年の賃上げ率は2.8%程度まで下振れする可能性がある。1997年並みの水準であり、当時の日本経済はデフレに陥る瀬戸際にあった。トランプ関税の打撃が深刻なものになれば、インフレ経済に移行した日本経済は再びデフレに戻るリスクが高まることを示唆している。
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