サマリー
- 実質GDP成長率見通し:21年度+3.1%、22年度+3.7%:本予測のメインシナリオでは、ワクチンの効果や経口治療薬の普及もあり、安定した感染状況が続くと想定している。実質GDP成長率は21年度で+3.1%、22年度で+3.7%と見込む。個人消費は行動制限の緩和を受けてサービス消費を中心に回復しよう。追加経済対策の効果は2022年前半を中心に表れるとみられるほか、0.6兆円程度と試算される自動車のペントアップ需要の発現も景気の追い風となる。資源高で家計負担は増加するものの、40兆円超の過剰貯蓄により、個人消費への悪影響は抑えられるだろう。ただし低所得者世帯を中心に影響が大きい点には注意が必要だ。一方、最大の景気下振れリスクは引き続き変異株の動向である。仮にワクチンの重症化予防効果を引き下げる変異株が国内外で流行すれば、多くの国で厳しい行動制限措置が実施され、経済活動は再び停滞しよう。
- 論点①:「成長と分配の好循環」をどう実現するか:日本経済が抱える問題点を資金フロー面から整理すると、①成長の不足(=企業の稼ぐ力が弱い)、②交易条件悪化による海外への所得流出、③社会保険料の増加(→可処分所得の低迷)、④若年層を中心とする将来不安(→消費性向の低迷)、⑤企業部門内での資金の滞留(投資低迷)、の5つを指摘できる。「成長と分配の好循環」の実現には、成長力の強化や交易条件の改善に向けた取り組みを加速させる必要がある。働き手の可処分所得を引き上げ、将来不安を払拭するための全世代型社会保障改革は不可欠であり、セーフティネットの再編や子育て支援の強化も重要である。クリーンエネルギー戦略と整合的なマクロ経済の姿や、カーボンニュートラルと両立する経済シナリオを具体的に示すこと、今後の経済成長を左右するグリーン・デジタル分野の中期的な財政フレームワークの策定も望まれる。
- 論点②:岸田政権の重点施策の効果と課題:岸田政権の主な分配政策である賃上げ税制の強化は、賃金総額を1.2兆円押し上げるとみられ、それが全て固定給の引き上げにつながる場合、0.6兆円程度の消費拡大をもたらす可能性がある。「成長と分配の好循環」をもたらすカギは継続的な固定給の引き上げにあり、その実現には人材投資による労働生産性の向上が有効である。公的価格の引き上げについては、看護師・介護士・保育士の賃金を3%引き上げる場合、消費を0.2兆円程度押し上げよう。景気浮揚よりも看護師等の職場環境改善策としての意義が認められる一方、国民の負担増とのバランスが課題である。11月19日に閣議決定された追加経済対策の家計向け給付額は総額5兆円程度だが、消費の押し上げ効果は1.6兆円程度にとどまるとみられる。今後はマイナンバー等を活用したきめ細やかな給付の制度設計が課題となろう。
- 日銀の政策:21年度のコアCPIは携帯電話通信料の引き下げ等の影響もあり前年比▲0.1%まで低下するものの、22年度は同+0.8%に高まろう。経済活動の正常化が進む中、資源高の影響もあり物価の上昇ペースは加速する見込みである。日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、極めて緩和的な金融政策を維持するとみている。
【主な前提条件】
(1)公共投資は21年度▲1.0%、22年度+3.5%と想定。
(2)為替レートは21年度111.6円/㌦、22年度113.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は21年+5.6%、22年+4.0%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度『JC-STAR』の開始
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月16日
-
2025年度のPBはGDP比1~2%程度の赤字?
減税や大型補正予算編成で3%台に赤字が拡大する可能性も
2025年01月15日
-
『ICTサイバーセキュリティ政策の中期重点方針』の公表
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月15日
-
緩やかな回復基調、地域でばらつきも~消費者の節約志向や投資意欲の変化を注視
2025年1月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年01月14日
-
金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドラインとセキュリティ人材育成
2025年01月16日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
-
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日