第211回日本経済予測(改訂版)

「新しい資本主義」実現の課題とは?~①成長と分配の好循環、②分配政策、③経済正常化、を検証

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2021年12月08日

  • リサーチ本部 副理事長 兼 専務取締役 リサーチ本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 末吉 孝行
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之
  • 鈴木 雄大郎
  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉
  • 和田 恵
  • 経済調査部 エコノミスト 岸川 和馬
  • 金融調査部 研究員 瀬戸 佑基
  • 金融調査部 主任研究員 是枝 俊悟

サマリー

  1. 実質GDP成長率見通し:21年度+3.1%、22年度+3.7%:本予測のメインシナリオでは、ワクチンの効果や経口治療薬の普及もあり、安定した感染状況が続くと想定している。実質GDP成長率は21年度で+3.1%、22年度で+3.7%と見込む。個人消費は行動制限の緩和を受けてサービス消費を中心に回復しよう。追加経済対策の効果は2022年前半を中心に表れるとみられるほか、0.6兆円程度と試算される自動車のペントアップ需要の発現も景気の追い風となる。資源高で家計負担は増加するものの、40兆円超の過剰貯蓄により、個人消費への悪影響は抑えられるだろう。ただし低所得者世帯を中心に影響が大きい点には注意が必要だ。一方、最大の景気下振れリスクは引き続き変異株の動向である。仮にワクチンの重症化予防効果を引き下げる変異株が国内外で流行すれば、多くの国で厳しい行動制限措置が実施され、経済活動は再び停滞しよう。
  2. 論点①:「成長と分配の好循環」をどう実現するか:日本経済が抱える問題点を資金フロー面から整理すると、①成長の不足(=企業の稼ぐ力が弱い)、②交易条件悪化による海外への所得流出、③社会保険料の増加(→可処分所得の低迷)、④若年層を中心とする将来不安(→消費性向の低迷)、⑤企業部門内での資金の滞留(投資低迷)、の5つを指摘できる。「成長と分配の好循環」の実現には、成長力の強化や交易条件の改善に向けた取り組みを加速させる必要がある。働き手の可処分所得を引き上げ、将来不安を払拭するための全世代型社会保障改革は不可欠であり、セーフティネットの再編や子育て支援の強化も重要である。クリーンエネルギー戦略と整合的なマクロ経済の姿や、カーボンニュートラルと両立する経済シナリオを具体的に示すこと、今後の経済成長を左右するグリーン・デジタル分野の中期的な財政フレームワークの策定も望まれる。
  3. 論点②:岸田政権の重点施策の効果と課題:岸田政権の主な分配政策である賃上げ税制の強化は、賃金総額を1.2兆円押し上げるとみられ、それが全て固定給の引き上げにつながる場合、0.6兆円程度の消費拡大をもたらす可能性がある。「成長と分配の好循環」をもたらすカギは継続的な固定給の引き上げにあり、その実現には人材投資による労働生産性の向上が有効である。公的価格の引き上げについては、看護師・介護士・保育士の賃金を3%引き上げる場合、消費を0.2兆円程度押し上げよう。景気浮揚よりも看護師等の職場環境改善策としての意義が認められる一方、国民の負担増とのバランスが課題である。11月19日に閣議決定された追加経済対策の家計向け給付額は総額5兆円程度だが、消費の押し上げ効果は1.6兆円程度にとどまるとみられる。今後はマイナンバー等を活用したきめ細やかな給付の制度設計が課題となろう。
  4. 日銀の政策:21年度のコアCPIは携帯電話通信料の引き下げ等の影響もあり前年比▲0.1%まで低下するものの、22年度は同+0.8%に高まろう。経済活動の正常化が進む中、資源高の影響もあり物価の上昇ペースは加速する見込みである。日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、極めて緩和的な金融政策を維持するとみている。

【主な前提条件】
(1)公共投資は21年度▲1.0%、22年度+3.5%と想定。
(2)為替レートは21年度111.6円/㌦、22年度113.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は21年+5.6%、22年+4.0%とした。

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