サマリー
- 海外発の景気下振れリスクは残存:2016年4-6月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2016年度が前年度比+0.9%(前回:同+0.9%)、2017年度が同+0.9%(同:同+0.9%)である。足下で日本経済は「踊り場」局面が継続しているものの、先行きに関しては、①実質賃金の増加、②原油安と交易条件の改善、③経済対策の策定、などの国内要因が下支え役となり、緩やかに回復する見通しである。ただし、中国を中心とする海外経済の下振れリスクには細心の注意が必要となろう。本予測では、以下の3つの論点について考察した。
- 論点①:Brexitを受けて欧州で金融不安が再燃すると何が起きるのか?:Brexitが決定したことで起こり得る、金融システムを通じたリスクについて定量的に検証した。Brexitを受けた足下のリスクは英国における不動産価格の下落であるが、仮に不動産価格が急落しても英国の銀行、英国経済、世界経済への影響は限定的だ。また、イタリアの不良債権処理問題は、イタリア経済には一定の打撃を与え得るが、世界経済への影響は軽微なものにとどまる。ただし、これらの問題が複合化して、欧州の金融システム全体に危機が波及した場合、世界GDPを2.7%、日本のGDPを1.9%下押しする可能性がある。今後も欧州の金融システムの動向からは目が離せない状況が続くだろう。
- 論点②:長期停滞論を踏まえたわが国の経済対策の評価:世界経済の長期停滞を避けるため、先進国には「ワイズ・スペンディング(賢明な支出)」を積極化させることが期待される。8月に日本政府は大型補正予算の編成を決定したが、そもそも巨額の財政赤字を抱えるわが国が大型経済対策を乱発することは困難である。財政出動で景気が浮揚している間に、成長戦略の推進や将来の成長に向けた構造改革を断行することが不可欠だ。当社の試算では、労働市場改革による労働参加率の上昇やパートタイム労働者の労働時間延長によって、潜在GDPは24兆円程度押し上げられる。
- 論点③:ジニ係数などの「格差問題」からみた今後の政策課題:国際比較を通じて、わが国の所得格差問題を改めて整理するとともに、今後の政策課題について検討した。国際的に見ると、日本の所得格差は、1985年から2000年にかけて拡大したものの、2000年から2009年にかけては、所得格差拡大の動きは見られない。今後日本が解決するべき問題は、「所得格差」ではなく「所得低迷」である。わが国が所得低迷から脱出するためには、3つの課題に取り組まねばならない。第一に、正社員と非正規社員という所得の「2つの山」を緩和・解消する必要がある。第二に、短期的には低所得者層向けの所得支援策に有効な側面がある一方で、中長期的な視点からは、人的資本の価値向上策が求められる。第三に、最低賃金引き上げによる時給の「底上げ効果」にも期待したい。
- 日本経済のリスク要因:日本経済のリスク要因としては、①中国経済の下振れ、②米国の「出口戦略」に伴う新興国市場の動揺、③地政学的リスクを背景とする「リスクオフ(円高・株安)」、④英国のEU離脱や欧州金融機関のデレバレッジ、の4点に留意が必要だ。当社の中国に対する見方は「短期=楽観。中長期=悲観」である。中国経済を取り巻く状況を極めて単純化すれば、「1,000兆円弱の過剰融資」「550兆円以上の過剰資本ストック」に対して、中国政府が600兆円から800兆円規模の財政資金で立ち向かう、という構図だ。中国経済の底割れは当面回避されるとみているが、中長期的なタイムスパンでは大規模な資本ストック調整が発生するリスクを警戒すべきであろう。
- 日銀の政策:日銀は、9月以降追加的な金融緩和に踏み切る見通しである。日銀にとって、デフレとの戦いが長期化する中で、持続可能な金融政策の枠組みを再構築することが課題となろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は16年度+7.4%、17年度▲3.0%と想定。
(2)為替レートは16年度103.2円/㌦、17年度101.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は16年+1.5%、17年+2.3%とした。
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