第183回日本経済予測

消費税増税先送り後の日本経済の行方~「アベノミクスの光と影」を検証する~

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2014年11月21日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之

サマリー

  1. 安倍総理は消費税増税先送りを表明:2014年11月18日、安倍総理は消費税増税を先送りし、衆院解散・総選挙に踏み切る方針を表明した。当社は、今回の増税先送りの決定や、2014年7-9月期GDP一次速報の発表などを受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2014年度が前年度比▲0.5%(前回:同+0.7%)、2015年度が同+1.8%(同:同+1.5%)である。今回の消費税増税の先送りは、2015年度のGDP成長率を+0.53%pt押し上げるとみられる。ただし、当面、その蓋然性は極端に高いものではないが、消費税増税先送りを受けた「トリプル安(債券安・円安・株安)」進行のリスクには細心の注意が必要となるだろう。
  2. 日本経済のメインシナリオ:日本経済は、2014年1月をピークに景気後退局面入りしたとみられるものの、今回の景気後退は極めて短期間で終了した可能性が高い。2015年にかけて、日本経済は、①アベノミクスによる好循環が継続すること、②米国向けを中心に輸出が緩やかに持ち直すことなどから、緩やかな回復軌道をたどる見通しである。
  3. アベノミクスの光と影:今回のレポートでは、「アベノミクスの光と影」を多面的に検証した。アベノミクスが、わが国のマクロ経済にプラスの影響を及ぼしてきたことは間違いない。しかしながら、当社は、アベノミクスの基本的な方向性は正しいものの、依然として、いくつかの大きな課題が残されていると考える。
    • 中長期的課題:財政規律の維持と「第三の矢(成長戦略)」の強化:アベノミクスが抱える中長期的な課題は、①社会保障制度の抜本的な改革などを通じて財政規律を維持すること、②農業、医療・介護、労働といった分野における、いわゆる「岩盤規制」を緩和することなどを通じて、「第三の矢(成長戦略)」を強化すること、という2点である。なお、当社は、わが国で賃金が低迷してきたのは「分配政策」ではなく、「第三の矢(成長戦略)」が不十分であったことに主たる原因があると考えている。
    • 短期的課題:低所得者向け給付金や「地方創生」などへの取り組みがカギ:アベノミクスには光と影がある。現時点で、アベノミクスは、輸出企業を中心とする製造業、大企業、大都市の富裕層などに大きなメリットを与えているが、内需型の非製造業、中小企業、地方の低所得層などへの恩恵は小さい。以上の現状認識から、当社は、短期的な課題として、低所得者向け給付金の積み増しや、「地方創生」への取り組みを加速することなどを通じて、中小企業や地方の低所得層などに一定の配慮を示すことが必要だと考えている。
  4. 日銀の物価目標達成は可能か?:当社は、メインシナリオとして、日銀が掲げる「物価上昇率2%」目標の期限内の達成は困難だと予想している。日銀が追加的な金融緩和に踏み切る時期は2015年10-12月期と想定している。
  5. 5つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、①消費税増税先送りを受けた「トリプル安(債券安・円安・株安)」、②実質所得低迷による個人消費の停滞、③中国の「シャドーバンキング」問題、④米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、⑤地政学的リスクを背景とする世界的な株安、の5点に留意が必要である。

【主な前提条件】
(1)公共投資は14年度+4.4%、15年度▲7.2%と想定。15年10月の消費税増税は実施せず。
(2)為替レートは14年度109.5円/㌦、15年度118.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は14年+2.3%、15年+2.9%とした。

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