サマリー
◆石破茂新政権は、最低賃金(以下、最賃)を全国加重平均で1,500円に引き上げるという政府目標の達成時期を、従来の「2030年代半ば」から「2020年代」へと前倒しする方針だ。最も遅い2029年度に達成する場合でも、要求される2025~29年度の引き上げ率は年平均7.3%と過去最高を上回る。
◆日本の最賃の絶対額は主要先進国の中で低めだが、平均賃金対比では主要先進国の中でやや高い水準にある。日本が成長型経済に移行しても、最賃が2029年度に1,500円となる場合、同年度の最賃は平均賃金対比49%と2023年の主要先進国の最高水準(同44%)を大きく上回る。2025年度以降の平均賃金対比の上昇ペースは従来の3.6倍だ。
◆同様の試算を都道府県別に当てはめると、地方部の最賃は2029年度に平均賃金対比で50%超の県が多い。平均賃金が伸び悩む場合、沖縄県や青森県では同60%を上回る可能性もある。最賃の急速な引き上げで企業負担が過重になり、最賃法で保護すべき低賃金労働者の雇用環境が悪化したり、石破首相の重視する地方創生に逆行したりする恐れがある。「2020年代」という新たな達成時期は経済実態に照らして柔軟に見直すべきだろう。中小企業の生産性向上支援などを加速させるとともに、EBPM(証拠に基づく政策立案)の強化が一層求められる。
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