サマリー
◆欧州全体の新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染状況が概ね横ばい状態にある中、英国など一部の国では、新規感染者が再び増加する傾向が見られる。もっとも、入院患者(重症者)や死亡者は総じて抑制されているため、ワクチン接種の対象範囲の拡大や追加接種で対応しており、行動制限の解除や経済正常化の流れは止まらない。
◆経済活動の正常化に伴って、欧州経済の見通しは上方修正が続いてきた。10月にIMFが発表した2021年の欧州全体の成長率予想もその例外ではない。だが、個別には下方修正の動きが見られ、その代表例がユーロ圏最大のドイツと、行動制限をいち早く解除した英国である。
◆コロナ感染の影響も受けた供給サイドのボトルネックが長期化し、生産活動は停滞、価格は上昇している。加えて、エネルギー価格の高騰が、企業や家計の行動に影響を及ぼしており、短期的には、年末にかけて景気減速とインフレ率上昇が共存する、スタグフレーションに陥るとみられる。ECBが想定するように、インフレ圧力の上昇は一時的か見極める必要があるが、総じて“一時的”状態が長期化かつ深刻化しているのが現実だ。
◆人手不足に直面する英国では、ガソリン・パニックに対応するため、軍にスタンドへの燃料輸送を担わせた。一方、世界規模のサプライチェーン問題は、輸送力不足や港湾での遅延によって増幅されており、ホリデー商戦を前にして、おもちゃ等の商品が店頭に並ばないリスクが懸念される。ホリデー商戦は小売業の重要な書き入れ時であり、売上が立たない企業、欲しい物が手に入らない消費者双方にとって、サプライチェーン問題の長期化は大きな痛手である。短期ビザの発給といった小手先の対応では限界があり、緊急事態であるとして、政府が軍におもちゃを運ぶことを要請するかもしれない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日