サマリー
◆中国政府は2024年5月17日、①住宅ローンの頭金の割合の引き下げと住宅ローン金利の下限撤廃、②地方政府(国有企業)による住宅在庫の一部買取と保障性住宅への転換など、「前例のない」(中国メディア)住宅市場テコ入れ策を発表した。不動産不況からの脱却を期待したいところであるが、それは容易ではない。住宅価格の下落が続き、将来的な先高観が台頭しない間は、実需筋も住宅の購入を急がないであろうし、投資・投機商品としての住宅も人気離散が続く可能性がある。また、上記②については、同レベルの品質の物件が安価に購入、もしくは賃貸できるかもしれないとの期待が高まると、それ以外の住宅への需要を一段と押し下げる懸念がある。
◆不動産開発投資は2022年以降、大幅なマイナスが続いているが、家計にもバランスシート調整の影響が及んでいる可能性が高い。個人向け住宅ローン残高の前期差を見ると、2022年4月~6月以降は急減し、足元では純減(返済超過)となることが度々生じている。主因は、住宅需要が大きく減少したことであり、現地報道によれば、繰り上げ返済も急増しているという。居住目的で住宅を購入した家計が、住宅ローンの繰り上げ返済のために、資産運用を減らしたり、消費を抑制したりしている可能性がある。
◆米国は2024年5月14日、通商法301条に基づき、中国から輸入するリチウムイオン電池、鉄鋼、重要鉱物などに対する関税率を2024年~2026年にかけて引き上げることを発表した。追加関税の対象は180億ドルにとどまり、米国・中国ともに経済への影響は極めて限定的だ。経済への影響は、2024年11月5日の米大統領選挙でトランプ前大統領が再選した場合に大きくなる。トランプ氏は、大統領に就任した暁には対中輸入関税を全製品に60%、中国以外の全輸入品に10%課税するとしている。2024年5月22日に大和総研が公表した第221回日本経済予測では、この場合、米国の実質GDPを1.84%、中国の実質GDPを1.29%押し下げると試算している。トランプ氏再選の場合、中国経済にさらなる打撃が加わるということだ。
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