サマリー
◆2020年度に基礎的財政収支(PB)黒字化を実現するための新しい財政健全化計画がまもなく示されることから、数回にわたるシリーズレポートで財政問題にフォーカスする。
◆財政健全化を議論する際のベースになっている内閣府試算の経済再生ケースでは、PB赤字が続いても公債等残高GDP比が低下する見通しである。だが、それはこれまでの金利低下や負債満期の長期化政策を反映しているためであり、2020年代までを見通せば財政再建が進んでいるとは言えない。収支の赤字と債務の動向は同じ問題を別な角度から見たものであり、PBの黒字化を着実に目指す必要がある。
◆新しい健全化計画では、税収弾性値を現在の1.0程度ではなく、1.2~1.3程度に引き上げるという考え方を採用するようである。ただ、税収弾性値はどちらかと言えば低下する方向にあると考えられ、高めの税収弾性値を想定するならば、どのような要因でそれが実現するかのロジックや、それによって国民負担率が高まる分を将来の減税に充てない約束などが必要ではないか。
◆もっとも、大和総研の長期マクロモデルを利用して経済再生ケースが実現した場合の税収弾性値を試算すると、2010年代後半は潜在成長率の上昇による課税ベース拡大に加え、景気拡大による循環的な税収押上げ効果により、1.2程度を実現する可能性が示唆される。ただし、2020年代は1.0程度へ回帰するだろう。高い税収弾性値を長期に見込むことはできず、社会保障制度を改革しなければ超高齢化に伴う歳出増とあいまってPB赤字が拡大すると予想される。
◆社会保障以外の歳出改革について、名目の歳出額をあまり増やさなければ目標を達成できるという捉え方が広がっている。だが、デフレ脱却後に政府支出だけ増やさない(実質額を減らす)ということはかなり難しい。物価上昇分だけ増やす(実質額を横ばいにする)というのも、実質賃金が増えていく下では容易でないだろう。名目歳出額を増やさないという考え方は、歳出抑制を想定していることに他ならず、政府支出を増やさないための十分なプランが必要である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
財政再建シナリオの検討 ~マクロモデルによるシミュレーション
歳出抑制・負担増・成長力強化のすべての取組みがやはり重要
2015年10月29日
-
社会保障と財政の長期見通し
一定の経済成長の下でも、現在の社会保障制度・財政は維持できず
2015年09月17日
-
内閣府の中長期試算から財政再建を考える
厳しい歳出抑制と経済再生ケースの実現が必要
2015年08月17日
-
三度目の正直を期待したい~実効性の確保が求められる財政健全化計画
成長力強化と歳出改革を実現すれば20年度にPBが黒字化する可能性
2015年07月23日
-
社会保障・税一体改革の課題
~大和総研中期マクロモデルによる増税シミュレーション~『大和総研調査季報』 2011年秋季号(vol.4)掲載
2012年02月01日
-
新しい財政健全化計画の策定に向けて ~ベースとなる内閣府中長期試算の検証
長期的な視点に立った財政健全化計画の策定が期待される
2015年04月08日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
経済指標の要点(12/14~1/17発表統計分)
2025年01月17日
-
FISC、「金融機関によるAIの業務への利活用に関する安全対策の観点からの考察」の公表
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月17日
-
IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度『JC-STAR』の開始
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月16日
-
2025年度のPBはGDP比1~2%程度の赤字?
減税や大型補正予算編成で3%台に赤字が拡大する可能性も
2025年01月15日
-
ASEAN最大のグローバルサウス・インドネシアのBRICS加盟が意味することは?
2025年01月17日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
-
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日