サマリー
◆本稿では、財政健全化レポートシリーズNo.4で示した経済と財政の長期見通しを「ベースシナリオ」と位置づけた上で、政府の経済・財政再生計画を参考に、実施する改革メニューの範囲が異なる3つのケースを想定して経済と財政の姿をシミュレーションする。試算結果は相当の幅をもってみる必要があるが、社会保障と財政の持続可能性の確保について、大まかであっても定量的な議論をすることには意味があるだろう。
◆ケースAは経済・財政再生計画で示された検討項目のうち、政府が積極的に取り組もうとする意向が窺われるものを想定したシナリオである。後発医薬品の普及促進や医療提供体制の適正化などによる医療費の抑制、非社会保障歳出の伸びの抑制などを盛り込むと、社会保障と財政の持続可能性は確実に高まる。しかし、公債等残高GDP比の上昇は止まらず、現在抱えている課題の完全な解決には至らない。
◆ケースBはケースAの改革メニューに加え、医療・介護費の自己負担を増やし、消費税率を最終的に25%へ引き上げるなど、かなり厳しい改革の早期実施を想定したシナリオである。このケースでは経済成長率が低下することに加え、国民負担率が現在から3割ほど上昇するが、社会保障と財政の持続可能性を確保することができる。ただし公債等残高GDP比の水準は依然として高く、金利上昇リスクは残る。
◆ケースCは経済・財政再生計画をはじめとする各種の成長戦略が一定の効果をもたらすことにより、ケースBの改革を実施しつつベースシナリオ並みの経済成長率を維持すると想定したシナリオである。基礎的財政収支は2020年代前半には構造的な均衡に向かい、その後も黒字幅が拡大する。2040年度末の公債等残高GDP比は第二次安倍内閣発足直後であった2012年度末の水準を下回る。将来に対する不確実性が低下すれば、家計消費や民間設備投資のさらなる拡大も期待できるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
財政再建に関する最近の論点
やはり容易ではない基礎的財政収支の黒字化
2015年06月19日
-
三度目の正直を期待したい~実効性の確保が求められる財政健全化計画
成長力強化と歳出改革を実現すれば20年度にPBが黒字化する可能性
2015年07月23日
-
内閣府の中長期試算から財政再建を考える
厳しい歳出抑制と経済再生ケースの実現が必要
2015年08月17日
-
社会保障と財政の長期見通し
一定の経済成長の下でも、現在の社会保障制度・財政は維持できず
2015年09月17日
同じカテゴリの最新レポート
-
日本の財政の現状① 債務残高と歳入の特徴
財政シリーズレポート1
2025年06月12日
-
PB赤字は2026年度も続く?
予算修正とトランプ関税で3~4兆円の財政悪化も
2025年05月13日
-
2025年度のPBはGDP比1~2%程度の赤字?
減税や大型補正予算編成で3%台に赤字が拡大する可能性も
2025年01月15日
最新のレポート・コラム
-
「九州・沖縄」「北海道」など5地域で悪化~円高などの影響で消費の勢いが弱まる
2025年7月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年07月14日
-
2025年5月機械受注
民需(船電除く)は小幅に減少したが、コンセンサスに近い結果
2025年07月14日
-
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の構想と日本企業への示唆
影響、依存、リスクと機会(IDROs)をいかに捉え、対処するか
2025年07月14日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
-
中央値で見ても、やはり若者が貧しくなってはいない
~20代男女の実質可処分所得の推移・中央値版
2025年07月14日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日