サマリー
◆本稿では、2015年夏までに策定される新しい財政健全化計画に関して、定量的なベースとされる可能性が高い内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(以下、中長期試算、2015年2月)を概観する。その上で、財政健全化計画の策定に向けて3点指摘したい。
◆中長期試算は概ね半年ごとに公表されているが、経済再生ケースは2014年7月版に近い内容であり、消費税増税が経済に与える悪影響を大きめに見直した点が特徴と言える。一方、2014年7月版で参考ケースとされていたシナリオはベースラインケースに名称が改められただけでなく、経済成長率が保守的に見直されている。
◆いずれのケースも2020年度までの基礎的財政収支黒字化を実現できる見通しにはない。経済再生ケースの公債等残高GDP比は趨勢的に低下していくが、2020年代以降を展望すれば財政健全化の最終目標を実現しているとは言えない。今回の中長期試算は、①“現状継続シナリオ”とも呼べる保守的な見通しをベースラインとして位置づけたこと、②公表される情報が充実したこと、の2つの点で評価できる。
◆財政健全化計画を策定するにあたっては、第一に、ベースラインケースはそれ自体、歳出抑制が暗黙に想定されていることに留意すべきである。現実にはベースラインケースの想定すら満たしておらず、財政健全化計画で盛り込まれる歳出改革は、ベースラインケースで考える以上のものである必要性を認識しなければならない。
◆第二に、経済再生ケースは現時点で実現が相当に不確実なシナリオであり、財政健全化計画の前提とはしにくい。物価や経済成長率などに明確で好ましい変化が認められれば、その効果を計画の中間評価などの際に上乗せするという考え方が望ましいと思われる。
◆第三に、財政健全化の最終目標を実現するには更なる社会保障制度改革が不可欠である。長期的に、社会保障給付費は経済成長率を上回るペースで増加する可能性が高い。債務残高GDP比の趨勢的上昇を食い止め、安定的に引き下げるという最終目標を意識すると、社会保障の給付と負担のバランスの抜本的な見直しについて議論を深める必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
内閣府中長期試算にみる財政健全化目標の達成可能性
経済再生ケースに近づかない現実の経済
2016年01月28日
-
内閣府の中長期試算から財政再建を考える
厳しい歳出抑制と経済再生ケースの実現が必要
2015年08月17日
-
三度目の正直を期待したい~実効性の確保が求められる財政健全化計画
成長力強化と歳出改革を実現すれば20年度にPBが黒字化する可能性
2015年07月23日
-
財政再建に関する最近の論点
やはり容易ではない基礎的財政収支の黒字化
2015年06月19日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日