サマリー
◆大和総研では2040年度までの社会保障や財政の見通しを2013年5月に発表した。その後、安倍内閣が経済・財政再生計画を策定するなど改革の方向性が示されてきたことや、経済・金融市場等が変化したことを踏まえて長期見通しを暫定改訂した。
◆マクロ経済指標を概観すると、実質GDP成長率は2010年代で年率1.1%、2020年代で同1.1%、2030年代で同0.8%と見込まれる。働き手の減少が続く中、労働代替的な投資や技術革新などが進み、労働生産性上昇率は年率2%程度へ加速する。
◆CPIは年率1%程度で推移し、デフレから脱却する見通しである。名目賃金は労働需給の引き締まりや労働生産性の向上を反映し、物価を上回るペースで上昇すると見込まれる。長期金利は2010年代末以降2%強で推移し、政府債務の実効的な負債利子率は2030年代に名目GDP成長率を上回る見通し。
◆年金給付費は2030年代初めにかけてGDP比で低下していく一方、医療と介護の給付費はGDPを上回るペースで増加していくと見込まれる。医療・介護費の増加は、年金以上に高齢化の影響を受けることや、高齢化以外の要因によって押し上げられていることが背景にある。高齢化以外の要因による医療費の増加をいかに抑制できるかが、社会保障制度・財政の先行きを考える上でのポイントである。
◆基礎的財政収支は黒字化には至らず、2020年代以降は社会保障費の増大によりGDP比で赤字幅が拡大すると見込まれる。本稿の予測はリスクプレミアムの発生による金利上昇を想定していないが、それでも公債等残高GDP比は上昇が続き、2040年度末には330%程度に達すると予想される。これは事実上の財政破たんシナリオと言え、それを回避するためにも経済・財政再生計画は極めて重要である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
高齢化以上に増加する医療費
将来の医療費は医療の高度化や非効率への対応次第で大きく変わる
2016年10月24日
-
財政再建シナリオの検討 ~マクロモデルによるシミュレーション
歳出抑制・負担増・成長力強化のすべての取組みがやはり重要
2015年10月29日
-
財政再建に関する最近の論点
やはり容易ではない基礎的財政収支の黒字化
2015年06月19日
-
三度目の正直を期待したい~実効性の確保が求められる財政健全化計画
成長力強化と歳出改革を実現すれば20年度にPBが黒字化する可能性
2015年07月23日
-
内閣府の中長期試算から財政再建を考える
厳しい歳出抑制と経済再生ケースの実現が必要
2015年08月17日
同じカテゴリの最新レポート
-
日本の財政の現状② 歳出と収支
財政シリーズレポート2
2025年07月18日
-
日本の財政の現状① 債務残高と歳入の特徴
財政シリーズレポート1
2025年06月12日
-
PB赤字は2026年度も続く?
予算修正とトランプ関税で3~4兆円の財政悪化も
2025年05月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日