サマリー
◆FRBが想定してきたソフトランディング・シナリオを達成するためには、利下げの実施により景気や労働市場が底堅さを維持する中でも、インフレ減速が継続していく必要がある。コアPCE価格指数は労働需給の緩和と概ね連動して減速してきており、インフレ減速が継続するためには、さらなる労働需給の緩和が必要といえる。ただし、ソフトランディングを実現するためには、労働需要の縮小ではなく、労働供給の拡大を中心とした労働需給の緩和が続いていくことが求められる。
◆労働供給の拡大要因として今後も期待できるのは移民流入である。過去1年間の米国外生まれ労働力人口(移民労働者)の増加ペースを維持することができれば、ソフトランディングに必要な労働需給の緩和を労働供給の拡大を中心に達成することも可能と考えられる。ただし、大統領選挙を控えて、バイデン政権は移民規制を進めており、先行きの移民流入ペースについては不確実性が高いことには注意が必要となる。
◆他方で、足元は失業率が上昇しやすくなっているとみられ、FOMC参加者の想定以上に失業率が上昇していくことで労働需給が緩和することも考えられる。失業率が上昇しやすくなっている背景として、①求人率の低下によるベバリッジ曲線からの示唆、②不法移民の流入に起因する労働市場のミスマッチ拡大の可能性、③移民の急増に伴う短期の均衡雇用者増加数の上昇、の3点が挙げられる。
◆金融政策への示唆について、これまで通り労働供給の拡大を中心とした労働需給の緩和が当面継続するシナリオでは、ドットチャートの中央値で示唆されるようなペースで利下げが継続していくと考えられる。他方、失業率の上昇を伴いながら労働需給が緩和していくシナリオでは、基本的にはFRBによる利下げペースは速まることが想定される。ただし、後者のシナリオで注意が必要なのは、雇用のミスマッチの拡大により失業率が上昇する一方で、求人率が高止まりするケースだ。労働需給が緩和したとしても、求人率が高止まりすればインフレも高止まりする可能性は否定できない。この場合、FRBはインフレ高止まりと失業率上昇の板挟みとなり、金利据え置きと利下げの間で難しい判断を迫られることになるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国、設備投資費用の即時償却を復活・拡張
製造業・情報産業の新規投資、及び対米直接投資の増加要因か
2025年10月07日
-
米国経済見通し 利下げ再開後の注目点は?
景気下振れリスクが懸念される時こそ、インフレ動向を注視すべき
2025年09月24日
-
FOMC 0.25%ptの利下げを決定
先行きの利下げペースに関しては予想がばらつく
2025年09月18日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日