サマリー
◆日中間の経済的な結びつきはこの20年ほどで急速に強まった。その結果、日本の財貿易は欧米に比べ中国への偏重が目立つ。国際産業連関表をもとに中間投入額に占める中国由来の割合を算出すると、日本はG7諸国の中で最大だ。一部のレアメタルやレアアースは、日本だけでなく世界においても中国からの輸入シェアが高く、代替調達が困難になりやすい。経済安全保障面での日本企業の課題は業種によって大きく異なり、例えば電気機械や一般機械はとりわけ中国の生産能力を活用しているため、脱中国を進める場合は第三国への生産拠点の移管や国内回帰などが選択肢になるだろう。
◆インド太平洋経済枠組み(IPEF)で議論されている「重要品目」で脱中国が進めば、サプライチェーンの安定性が高まる半面、中国向け輸出の減少という形で日本経済にマイナスの影響を及ぼすとみられる。日本が中国から安価に輸入していた重要品目をIPEF参加国などから新たに調達することで、輸入コストが増加することも懸念される。一方、IPEF内での重要品目の貿易は活発化することが予想され、日本にとっては参加国向けの輸出が増える好機となるだろう。重要品目の多くで日本の国際競争力は比較的高く、中国からの代替調達先となる可能性がある。
◆経済安全保障の重要性の高まりや円安の進展もあり、生産拠点としての日本の競争力は改善した。だが、それが国内投資の自律的な増加につながるとは限らない。仮に機械関連業種の中国現地法人が事業活動の1割(売上高で3兆円弱)を日本に移管すると、日本のGDPは2.4兆円増加する一方、企業の営業利益は0.6兆円減少すると試算される。国内投資が活発化するには、「低成長・低収益」という日本の課題などに官民が連携して積極的に対応し、事業拠点としての魅力を高めていく必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2023年5月
経済見通しを改訂/「好材料」の増加で安定性を増す日本経済
2023年05月24日
-
日本経済見通し:2023年4月
金利が上昇したら日本経済はどうなるか
2023年04月20日
-
日本経済見通し:2023年3月
2023年春闘では大幅ベアに/物価高の中でも好調な企業収益の背景
2023年03月22日
-
日本経済見通し:2023年2月
経済見通しを改訂/日銀は新執行部の下でも緩和路線を当面継続か
2023年02月22日
-
日本経済見通し:2023年1月
急回復するインバウンドと関心が高まる金融政策の先行き
2023年01月23日
-
2023年の日本経済見通し
実質GDP成長率は+2%程度を見込むもののマイナスに転じることも
2022年12月21日
同じカテゴリの最新レポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
主要国経済Outlook 2025年6月号(No.463)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年05月26日
-
世界経済は落ち着きを取り戻すのか
2025年05月26日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日