サマリー
◆現在も2%の物価安定目標の達成はめどが立たないが、一方で2023年春闘では賃上げ率が約30年ぶりの高水準となりそうだ。今後、人件費の増加を理由にサービスなど幅広い品目で値上げが行われれば、インフレの持続性が高まり、いずれ日本銀行(日銀)は金融政策の正常化に着手する可能性がある。そこで本稿では、将来の金利上昇リスクについて定量的に検討した。
◆長期金利が1%pt上昇する場合、純利息収入への影響は家計が+0.3兆円、企業が▲0.1兆円、政府が▲0.7兆円、日銀が+0.3兆円、金融機関等が+0.3兆円と試算される。さらに短期金利も1%pt上昇すると、家計が+1.0兆円、企業が▲3.0兆円、政府が▲1.3兆円、日銀が▲4.7兆円、金融機関等が+8.0兆円へと大幅に拡大する。家計は純利息収入が増加するが、その恩恵は無職世帯や高齢世帯に偏っている。中間所得層や30~40代の世帯では金利上昇による悪影響がとりわけ大きい。
◆上記試算は各経済主体の行動が変化しない静学的な分析である。動学的な波及経路を考慮した金利上昇の影響の大きさを測るため、マクロモデルを用いてシミュレーションを行うと、短期金利が1%pt上昇する場合の実質GDPへの影響は3年目で▲0.8%であり、長期金利が1%pt上昇する場合の2倍以上のインパクトがある。もっとも、3%ptや5%ptといった大幅な金利上昇が短期間に起きれば、システミック・リスクの発生やリスクプレミアムの高まりなどマクロモデルに反映させることができない非線形的な影響を日本経済にもたらし得る。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2023年3月
2023年春闘では大幅ベアに/物価高の中でも好調な企業収益の背景
2023年03月22日
-
日本経済見通し:2023年2月
経済見通しを改訂/日銀は新執行部の下でも緩和路線を当面継続か
2023年02月22日
-
日本経済見通し:2023年1月
急回復するインバウンドと関心が高まる金融政策の先行き
2023年01月23日
-
2023年の日本経済見通し
実質GDP成長率は+2%程度を見込むもののマイナスに転じることも
2022年12月21日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日