第213回日本経済予測
インフレ高進・ウクライナ危機下の世界経済の行方~①日インフレ、②米景気後退リスク、③世界的供給問題、を検証
2022年05月24日
サマリー
- 実質GDP成長率見通し:22年度+2.9%、23年度+1.9%:本予測のメインシナリオでは、新型コロナウイルスワクチン追加接種の効果や経口治療薬の普及などもあって経済活動の正常化が進展するとの想定の下、実質GDP成長率は22年度で+2.9%、23年度で+1.9%と見込む。ウクライナ危機や感染状況、米国の金融政策、中国経済の停滞などにより景気が下振れするリスクは大きい。だが、22年度は国内のサービス消費やインバウンド消費の回復余地、自動車の増産余地の大きさなどから、資源高の中でも景気回復が継続する見通しである。足元で急速に進む円安は、ウクライナ危機や感染拡大によって「悪い円安」となっており、経済活動への悪影響には注意が必要だ。
- 論点①:インフレの展望と日本経済の中長期的課題:オイルショック期などと比較すると、現在は単位労働コストの目立った上昇やホームメイドインフレは見られず、米国のようにインフレが高進するリスクは低い。22年度のコアCPI上昇率は前年比+1.8%と見込んでいる。資源価格が横ばいで推移すると、交易条件の悪化による海外への所得流出額は22年度に8.3兆円程度拡大し、家計の直接的な負担増は3.1兆円程度になるとみられる。経済正常化の進展や人手不足の深刻化などから賃金上昇が続くことで、資源高の影響が概ね落ち着く23年度でも+1%程度のインフレが継続するだろう。中長期的には、金融政策が正常化して長期金利が急騰するリスクに警戒が必要だ。
- 論点②:利上げで米国は景気後退に陥るか:米国では、利上げによって金利に敏感な住宅投資の調整が見込まれる。ただし、家計のバランスシートにはリーマン・ショック前のような過度なレバレッジは見られず、住宅市場の調整が景気後退を引き起こす可能性は低い。他方、家計による株式保有は増加しており、株価下落による逆資産効果に注意が必要だ。インフレ率が高い局面では、リスクプレミアムの拡大によって長期金利が上昇しやすく、金利上昇は更なる株価下落を引き起こす可能性がある。メインシナリオでは、米国経済は景気後退を回避すると見込むが、バランスシート縮小後の長期金利が5%台後半を超えるかどうかが、米国が景気後退に陥る1つの目安となろう。
- 論点③:サプライチェーンの混乱による経済・産業への影響:ロシアはグローバルサプライチェーンの上流に位置づけられ、欧州を中心に素材・中間財を供給している。ロシアとの貿易が停止した場合の影響を試算すると、日本では生産額対比で▲1.0%程度、ドイツでは同▲1.4%程度である一方、米国では同▲0.2%程度にとどまる。業種別に見れば、日本では輸送機械や鉄鋼・非鉄金属などを中心に悪影響が及ぶだろう。また、もし仮に中国と世界の貿易が断絶した場合、日本の実質GDPは年間40~70兆円程度押し下げられる可能性がある。
- 日銀の政策:コアCPIは資源高及び円安による押し上げもあって22年度に前年比+1.8%に高まろう。ただし、こうした影響が一部剥落する23年度には同+1.2%を見込む。経済活動の正常化は進むものの、予測期間を通じてインフレ目標の安定的な達成は見通せない。このため、日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、現在の金融政策の枠組みを維持するとみている。
【主な前提条件】
(1)名目公共投資は22年度▲2.8%、23年度+2.2%と想定。
(2)為替レートは22年度127.9円/㌦、23年度127.9円/㌦とした。
(3)原油価格(WTI)は22年度112.0ドル/バレル、23年度113.2ドル/バレルとした。
(4)米国実質GDP成長率(暦年)は22年+2.6%、23年+2.0%とした。
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