サマリー
- 実質GDP成長率見通し:21年度+3.4%、22年度:+3.2%:本予測のメインシナリオでは、高齢者のワクチン接種が9月末までにほぼ完了し、12月末には全国民の約半数が接種を終えると想定している。経済活動の正常化が21年秋から本格化することで景気の回復ペースは加速していき、実質GDP成長率見通しは21年度で+3.4%、22年度で+3.2%を見込む。米中経済の力強い回復が続く中、国家間で二極化が進むだろう。足元では感染力の高い変異株が猛威を振るっており、今後のワクチンの接種ペース次第で日本経済見通しは大きく変わる。ワクチンの接種ペースが想定よりも遅れれば、21年度中にさらに3回の宣言が発出され、21年度の実質GDP成長率はメインシナリオから1%pt程度下振れする可能性がある。
- 論点①:世界経済の回復と日本の輸出:海外経済の力強い回復が見込まれる中、輸出が日本経済の下支えになると予想される。とりわけ輸出先としてのシェアが大きい米国、中国で高い成長が見込まれることは日本経済にとって追い風となろう。内需主導の成長が見込まれる米国に対しては、主力品である自動車の増加が期待される。もっとも、半導体不足による供給制約がボトルネックとなり、当面の増加ペースは緩やかなものとなる可能性が高い。一方で中国向け輸出については、中国の内需のみならず外需がカギとなる。中国から米国への輸出の拡大および、欧州市場における中国のシェア拡大によって、日本の中国向け輸出は増加基調が続くと見込まれる。
- 論点②:米国におけるインフレ進行懸念と長期金利上昇リスク:米国では最近、供給制約に起因したインフレ懸念が高まっている。メインシナリオとしては、インフレは短期的な現象にとどまり、中長期的にインフレ率はFRBが目標とする2%に収束するとみている。また米国の長期金利が過度に上昇するリスクは限定的と考えている。しかしながら、仮に供給制約の長期化などのリスクシナリオが実現すれば、インフレが一段と進行し、長期金利の上昇圧力として作用する可能性がある。米金利の上昇が新興国を中心に世界経済にもたらす影響を検討すると、過去の米長期金利の上昇期における経済面の特徴としては、新興国経済は回復が出遅れる傾向にあることが指摘できる。
- 論点③:21年度の最低賃金と目安の在り方:賃金相場の上昇が感染拡大後も続いていることを踏まえると、21年度の最低賃金は引き上げの余地がある。最低賃金と生活保護水準や貧困線との関係を再検討する必要もありそうだ。だが、「日本の最低賃金は国際的に見て低い」「最低賃金の地域間格差は地方から大都市圏への人口流出を促している」との指摘は妥当でなく、最低賃金を積極的に引き上げる根拠にはならない。感染が拡大する中での最低賃金の引き上げは、宿泊・飲食サービス業などの労働需要の回復を妨げる恐れがある。21年度の最低賃金の改定では経済実態を踏まえたきめ細かい議論が不可欠だ。1,000円という政府目標の論拠を明確化することも検討に値する。日本社会が目指すべき最低賃金の水準とはどのようなものか多面的に検討する必要があろう。
- 日銀の政策:21年度のコアCPIは携帯電話通信料の引き下げなどを受けて前年比▲0.1%まで低下するものの、22年度は同+0.6%に高まろう。ワクチン接種の進展により経済活動が正常化に向かう中、物価の基調は緩やかな上昇にとどまる見込みである。日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、極めて緩和的な金融政策を維持するとみている。
【主な前提条件】
(1)公共投資は21年度+2.0%、22年度+1.0%と想定。
(2)為替レートは21年度109.2円/㌦、22年度109.3円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は21年+7.3%、22年+4.2%とした。
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