第188回日本経済予測

世界同時不況は回避できるのか? ~①マイナス金利、②消費増税、③中国バブル崩壊の影響を検証~

RSS

2016年02月23日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • 岡本 佳佑
  • 小林 俊介
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之

サマリー

  1. 海外発で日本経済の下振れリスクが強まる:2015年10-12月期GDP一次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2015年度が前年度比+0.7%(前回:同+1.0%)、2016年度が同+0.9%(同:同+1.5%)、今回新たに予測した2017年度が同▲0.1%である。足下で日本経済は踊り場局面が継続しているものの、先行きに関しては、①在庫調整の進展、②原油安、③実質賃金の増加、④補正予算の編成、などの国内要因が下支え役となり、緩やかに回復する見通しである。ただし、中国を中心とする海外経済の下振れリスクには細心の注意が必要となろう。
  2. 日銀によるマイナス金利導入の影響をどう捉えるか?:日本に先駆けて導入された、欧州のマイナス金利は、実体経済に直接的な好影響を与えたとは明言し難いものの、金融市場には一定のインパクトを与え、株高による資産効果や通貨安による輸出増などを通じて、間接的に実体経済を押し上げたとみられる。しかし、日本においてはマイナス金利導入後、折悪しく、世界経済の先行き不透明感が強まったため、株高や通貨安が示現しておらず、現時点では、欧州で見られた、金融市場を通じた経済に対する間接的な押し上げ効果は期待しづらくなっている。他方、当社の試算では、金利の低下は金融機関や企業、家計といった民間部門に恩恵をもたらす。金融機関には国債売却益の増加、企業や家計にとっては貸出金利や住宅ローン金利の低下が好影響を与えると予想される。
  3. 世界同時不況は回避できるのか?:世界経済の長期的なサイクルを踏まえつつ現状を俯瞰すると、「先進国の民間需要の回復が未だ極めて緩慢であるにもかかわらず、財政緊縮・金融引き締めがスタートしてしまっている」ことこそが、世界的な景気停滞感の根幹にある。今後の世界経済・金融市場下げ止まりに向けたカギは、伊勢志摩サミットを睨んだ、先進国と中国などによる政策協調である。新興国や資源国の経済が減速する中で、世界経済の成長は、新興国頼みから脱却して、先進国が牽引役にならざるを得ない。中国が資本規制導入などにより人民元切り下げを回避すると同時に、先進国は金融政策の発動余地が限定的な一方で、積極財政策を打ち出す余地があるだろう。
  4. 2017年の消費増税に向けた論点整理:2017年の消費増税に向けた論点を整理した。2014年の消費増税後の耐久財消費の戻りの鈍さには、過去の経済対策による需要先食いの反動が影響している。また、所得の見通しの弱さが「嗜好サービス」を中心とする、サービス消費に大きく影響したとみられる。こうした状況を勘案したうえで、2017年の消費増税の影響を試算すると、実質GDPは増税がない場合と比較して、2016年度=+0.3%、2017年度=▲0.6%程度の影響を与える計算となる。また、軽減税率導入による個人消費の下支え効果は約1.1兆円(2017年度)と試算される。
  5. 日本経済のリスク要因:中国経済の動向を中心に:日本経済のリスク要因としては、①中国経済の下振れ、②米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、③地政学的リスクを背景とする世界的な株安、④ユーロ圏経済の悪化、の4点に留意が必要だ。当社の中国に対する見方は「短期=楽観。中長期=悲観」である。中国経済を取り巻く状況を極めて単純化すれば、「1,000兆円以上の過剰融資」「400兆円以上の過剰資本ストック」に対して、中国政府が600兆~800兆円規模の財政資金で立ち向かう、という構図だ。中国経済の底割れは当面回避されるとみているが、中長期的なタイムスパンでは大規模な資本ストック調整が発生するリスクを警戒すべきであろう。
  6. 日銀の政策:日銀は、景気下振れ懸念を受けて、2016年4月に追加緩和を実施する見通しである。

【主な前提条件】
(1)公共投資は15年度▲1.1%、16年度▲2.4%、17年度▲4.5%と想定。17年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは15年度119.5円/㌦、16年度113.0円/㌦、17年度113.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は15年+2.4%、16年+2.3%、17年+2.4%とした。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。