第182回日本経済予測(改訂版)

人手不足が日本経済に与える影響を検証する~①消費税増税、②人手不足、③輸出動向、④猛暑効果等を考察~

RSS

2014年09月08日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之

サマリー

  1. 日本経済のメインシナリオ:2014年4-6月期GDP二次速報を受け、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2014年度が前年度比+0.7%(前回:同+0.7%)、2015年度が同+1.5%(同:同+1.5%)である。日本経済は、2014年4-6月期に消費税増税の影響で一時的に低迷したものの、7-9月期以降、緩やかな回復軌道をたどる見通しである。①足下で消費税増税に伴う悪影響がおおむね一巡したとみられること、②米国向けを中心に輸出が徐々に持ち直すことなどが、日本経済の好材料となろう。
  2. 4つの論点:本予測では、以下の4つの論点について考察した。
    論点①:消費税増税の影響をどうみるか?:2014年4月に実施された消費税増税の影響は、従来の当社の想定を上回ったとみられる。しかしながら、品目によって回復度合いにばらつきはあるものの、増税による影響は4月を底に緩和傾向にある。現時点で当社は、消費税増税は、2014年度の実質GDP成長率を▲1.33%pt押し下げ、2015年度のGDP成長率を+0.51%pt押し上げるとみている。
    論点②:人手不足が日本経済に与える影響は?:労働需給は非常にタイトな状況が続くと見込まれるものの、労働需給のひっ迫が賃金上昇や、雇用者の待遇改善につながり、それに伴い新たに就労を希望する者が増加する(=労働力率が上昇する)という前提に基づけば、当面人手不足が日本経済の致命的なボトルネックにはならないと考えられる。ただし、上記のメカニズムが働かない場合には、就業者数は2015年度、2016年度でそれぞれ、34.3万人、66.3万人程度不足し、これによって実質GDPは2015年度が3.4兆円、2016年度が7.2兆円程度下押しされる計算となる。こうした人手不足を労働力率の上昇のみによって解消するためには、2015年度の労働力率が0.4%pt、2016年度には0.8%pt上昇する必要がある。仮にマンアワーベースの生産性上昇で補うとすれば、2015年度が0.6%、2016年度が1.3%、生産性を引き上げることが必要だ。
    論点③:輸出は持ち直すのか?:米国経済の循環的な回復などを背景に、わが国の輸出は緩やかに持ち直すと予想される。ただし、2013年時点で11.5兆円ある貿易赤字のうち、約7兆円が空洞化、約4兆円が原発停止に伴う輸入増の影響によるものである。こうした構造要因を勘案すると、わが国の貿易収支は当面赤字の状態が続く可能性が高い。
    論点④:猛暑効果をどう捉えるか?:当社の試算では、平均気温が1℃上昇すると、GDP統計ベースの名目家計消費支出金額は、7月に676億円、8月に870億円、9月に664億円の増加が見込まれ、ならしてみると毎月700億円程度の消費の押し上げ効果が期待できる。
  3. 4つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、①実質所得低迷による個人消費の停滞、②中国の「シャドーバンキング」問題、③地政学的リスクを背景とする原油価格高騰や世界的な株安の進行、④米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、の4点に留意が必要である。
  4. 日銀の金融政策:日銀による追加的な金融緩和は2015年1-3月期以降と予想している。日銀の物価目標達成の可能性は排除できないものの、当社の現時点におけるメインシナリオでは、消費者物価上昇率は2%には届かないとみている。

【主な前提条件】
(1)公共投資は14年度+3.1%、15年度▲9.2%と想定。15年10月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは14年度103.8円/㌦、15年度105.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は14年+2.0%、15年+2.9%とした。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。