【移民レポート6】オーストラリア:多文化主義国家の移民政策
時代に応じた制度改正で移民受け入れ成功例に
2014年11月19日
サマリー
◆多文化主義国家として知られるオーストラリアでは、「移民」と「人道的支援プログラム(難民等)」を区別して運営しており、政府の経済的・社会的・環境的目標としての移民と、国際的な人道上の義務とのバランスをとっている。移民については、受け入れ数の策定が行われており、近年では年間約19万人の移民を受け入れている。その内訳は技能移民が68%、家族移民が31%である。2012年度の出身国別では、インド、中国、英国の順となった。以前は英国が最多であったが、近年インド移民が急増している。
◆技能移民に関しては2012年度に制度が大幅に改定された。これにより永住権取得に対する難易度は増しているとされるが、移民数そのものを制限するということではなく、労働市場の不足を補い、高齢化に対応するなど、オーストラリアへ経済的利益をもたらす高技能人材を優先的に受け入れるためのシステムとなっている。なお、カナダで問題となっている投資移民ビザは、超富裕層向けとなっている。
◆一時滞在ビザ取得者は、留学生とワーキングホリデーがほぼ同数で、就労が続いている。オーストラリアにとって大切なビジネスの一つである留学生は、中国の他、アジア系の出身者が多いのが特徴である。一時就労ビザの出身国ではインドが英国を抜いて最多となった。上位6カ国では、中国を除くと英語を公用語とする国の出身者が多い。一時就労ビザはその時の経済状況により、受け入れ人数や業種が大きく変化している。
◆入国から出国を除いた2012年度の純流入は約24万人となった。オーストラリアの人口増加の特徴を長期的に見ると、1980年代から、人口の自然増加数はほぼ一定であり、人口増加の主な要因は純流入の増加となっている。
◆オーストラリアは移民の受け入れにあたり、多文化主義へのさまざまな取り組みの他、経済的な目的を重視しつつも、時代に応じて制度改定を繰り返しており、高技能人材の受け入れに成功していると言える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
2014年11月20日
【移民レポート9】フィリピン:海外送金のメリットとコスト
消費拡大VS人材流出
-
2014年11月20日
【移民レポート8】中国:注目される投資移民と深刻な裸官問題
海外逃亡を図る腐敗幹部
-
2014年11月20日
【移民レポート7】インド:世界最大の移民送出国
出稼ぎ労働者からIT技術者まで
-
2014年11月19日
【移民レポート5】カナダ:移民受け入れ先進国が直面する問題
移民は経済・人口問題を解決できるか
-
2014年11月18日
【移民レポート4】英国:過去10年の移民急増が悩みの種
移民反対を掲げるUKIP(英国独立党)が躍進
-
2014年11月18日
【移民レポート3】ドイツ:移民政策転換から15年
高技能移民の積極受け入れと長期居住者の社会適合は道半ば
-
2014年11月18日
【移民レポート2】米国:国際的なヒトのモビリティの中心地
卓越した人材獲得競争力
-
2014年11月17日
【移民レポート1】日本の移民問題を考える
海外の事例を踏まえて
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年03月08日
円LIBORの一部、2022年末まで公表継続見込み
金利指標の変更が困難な既存契約(「タフレガシー」)に対応
-
2021年03月08日
雇用者数は前月差+37.9万人と増加幅が拡大
2021年2月米雇用統計:感染収束×追加的な経済対策=雇用環境の回復ペースの再加速
-
2021年03月05日
中国:21年の政府成長率目標は6.0%以上
キーワードは継続性、安定性、持続可能性。出口戦略は慎重を期す
-
2021年03月05日
有価証券の評価③
償却原価法とは?
-
2021年03月08日
震災10年、福島県の製造業復活の芽
よく読まれているリサーチレポート
-
2020年12月17日
2021年の日本経済見通し
+2%超の成長を見込むも感染状況次第で上下に大きく振れる可能性
-
2020年12月30日
東証市場再編の概要とTOPIXの見直し
影響が大きそうな流通株式の定義の変更
-
2020年04月13日
緊急経済対策の30万円の給付対象者概要と残された論点
ひとり親世帯や年金を受給しながら働く世帯などに検討の余地あり
-
2020年12月28日
改正会社法施行規則 取締役の報酬等の決定方針
-
2020年08月14日
来春に改訂されるCGコードの論点
東証再編時における市場選択の観点からも要注目