【移民レポート4】英国:過去10年の移民急増が悩みの種

移民反対を掲げるUKIP(英国独立党)が躍進

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2014年11月18日

サマリー

◆英国への移民は1994年以降、一貫して純流入となっている。特に2004年以降は年平均24万人の移民純流入があり、それ以前の10年と比較して倍増した。かつて大英帝国と言われた英国には、旧植民地のインド、香港、中近東、アフリカなどの出身者が多数居住しているが、近年の移民増加の背景には労働党政権(1997年~2010年)による移民政策の転換に加え、EU新規加盟国の急増があった。


◆労働党政権はIT技術者、医師、看護師などの不足を解消しようと約30年ぶりに移民規制の緩和に動いた。その際、高技能人材は積極的に受け入れるものの、未熟練労働者や不法就労移民の入国は制限する方針が採用された。ところが、この政策とEU拡大期(2004年に10か国、2007年に2か国が新規加盟)が重なったことで、英国への移民流入は政府の意図を超えて急増した。英語圏で、所得水準が高く、労働市場の柔軟性が高い英国は、東欧諸国からの移民にとって魅力の高い移住先となったのである。


◆しかし、英国経済は2008年半ばから、不動産バブル崩壊に世界的な金融危機も加わってリセッションに陥り、失業率が急上昇した。2010年に誕生した保守党と自由民主党の連立政権は、移民流入を規制する政策に転じた。ただし、EU域内からの移民に関しては、「人の移動の自由」を保障しているEUの基本原則に抵触するため、これまで積極的な規制は実行できていない。


◆この状況下で、EUの移民政策を批判し、移民を減らすためにも、英国はEUから離脱するべきと主張するUKIPが急速に支持を伸ばしている。2014年5月の欧州議会選挙では英国第1党に躍進し、その後、英国下院で初の議席も獲得した。2015年5月の英国議会選挙でUKIPが第3党となって、連立政権樹立のためのキャスティング・ボートを握る可能性があることは、支持率低下に悩むキャメロン首相にとって脅威となりつつある。

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