サマリー
◆移民の主たる出身地域が、かつての欧州から中南米、そしてアジアへと移り行く中で、米国の文化、社会も不断の変容を迫られてきた。国際的な人のモビリティを高める強い求心力を発揮すると同時に、モビリティの高さが同国の変化の原動力ともなる。ここに、米国が移民大国と呼ばれる所以があろう。
◆近年の米国の移民政策の中心に位置付けられるのが、不法移民対策である。それは新たな不法移民の流入を抑制する国境管理の問題であり、更には既に1000万人を超える、すでに米国内に存在する不法移民にいかに対応するかという問題でもある。後者については、合法的滞在資格の付与が主要な対応策の一つに位置付けられている。不法移民の存在を前提とし、彼らをいかに米国社会に融合させるかという観点が制度設計に盛り込まれている。それは移民増加に伴う社会的コストの削減策という側面を持っており、こうした移民先進国の政策の在り方は、日本に多くの教訓を与える。問題は、現在の日本では「移民はいない」ことになっているため、こうした政策が採用される余地を自ら放棄していることだ。
◆高技能人材を優先的に受け入れる「選択的移民政策」を採用していることは、米国も他の主要先進国同様である。ただし、日本のように高技能人材は良いが、単純労働者は受け入れないという二分法は取っていない。労働力供給の不足が明らかな職種については明示的な外国人労働者の受け入れを行っている。また、典型的には在米インド人の所得稼得能力の高さが示すように、米国は高技能人材受け入れ政策が有効に機能している国とみなせよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
【移民レポート9】フィリピン:海外送金のメリットとコスト
消費拡大VS人材流出
2014年11月20日
-
【移民レポート8】中国:注目される投資移民と深刻な裸官問題
海外逃亡を図る腐敗幹部
2014年11月20日
-
【移民レポート7】インド:世界最大の移民送出国
出稼ぎ労働者からIT技術者まで
2014年11月20日
-
【移民レポート6】オーストラリア:多文化主義国家の移民政策
時代に応じた制度改正で移民受け入れ成功例に
2014年11月19日
-
【移民レポート5】カナダ:移民受け入れ先進国が直面する問題
移民は経済・人口問題を解決できるか
2014年11月19日
-
【移民レポート4】英国:過去10年の移民急増が悩みの種
移民反対を掲げるUKIP(英国独立党)が躍進
2014年11月18日
-
【移民レポート3】ドイツ:移民政策転換から15年
高技能移民の積極受け入れと長期居住者の社会適合は道半ば
2014年11月18日
-
【移民レポート1】日本の移民問題を考える
海外の事例を踏まえて
2014年11月17日
同じカテゴリの最新レポート
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
2025年7-9月期GDP(2次速報)
設備投資などが減少し、実質GDPは前期比年率▲2.3%に下方修正
2025年12月08日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

