【移民レポート3】ドイツ:移民政策転換から15年
高技能移民の積極受け入れと長期居住者の社会適合は道半ば
サマリー
◆戦後ドイツでは4度の移民流入拡大期があった。移動や就業の自由が保障されているEU加盟国からの移民が多数派だが、歴史的経緯からトルコ、旧ユーゴスラビア、旧ソ連などからの移民も少なくない。2012年のドイツの人口に占める外国籍保有者は9.0%だが、自分自身あるいは親世代などが移民であった「移民の背景を持つ」ドイツ国籍保有者も加えると同20.0%に達する。
◆ドイツでは1972年以降、死亡数が出生数を上回る自然減の状態にある。しかしながら、移民の純流入のおかげで継続的な人口減少は免れており、1972年以降の42年間で人口が減少したのは18年にとどまる。加えて、移民流入者は25-45歳の働き盛りの年齢層が多いため、ドイツの人口高齢化のペース緩和にも貢献している。
◆このように移民の存在感は決して小さくはないが、ドイツが自国を移民受け入れ国と自覚し、受け入れ態勢の整備に力を入れるようになったのはここ15年程度のことである。現在の移民政策の重点は、ドイツに長く居住している移民をドイツ社会により良く適合させることと、国外から高技能人材を積極的に受け入れることの二つに置かれている。ただし、高技能移民を対象にした特別待遇ビザであるEUブルーカードの発行件数は伸び悩み、二重国籍問題、貧困移民など取り組むべき問題は山積している。
◆ここ数年、EUの移民政策に異議を唱える政党の台頭が欧州各国で目立つ。ドイツでも結成されてまだ日の浅いAfD(ドイツのもう一つの選択肢)が、2014年5月の欧州議会選挙で初議席を獲得したあと、3つの州議会選挙でも議席を得た。ただ、ドイツでは移民流入による失業増が社会問題化しているわけではない。むしろこの3州がいずれも旧東ドイツ地域に属する点が重要なのかもしれない。ベルリンの壁崩壊から25年が経過したが、東西の経済格差は依然として残り、旧東ドイツ地域の失業率は相対的に高い。移民が実際に居住しているのは旧西ドイツ地域の方がずっと多いのだが、移民増加に対する漠然とした不安は旧東ドイツ地域の方が高く、「移民の社会統合」が一筋縄ではいかない課題であることを示唆している。
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