サマリー
◆英国と欧州連合(EU)は、通商協定を含む将来的な関係性を巡る協定交渉で合意した。これで移行期間終了後の2021年1月1日から、英国とEUとの財の貿易は関税ゼロが維持されることになり、国境検査での大きな混乱は避けられる見通しとなった。今回の協定は、通商協定だけでなく、漁業や司法協力などの分野も含まれており、協定合意を受け、ジョンソン首相は、当初から提案していたEU・カナダ包括的経済貿易協定と同種の協定であることを強調し勝利宣言した。
◆妥結の障壁となっていた、英海域での漁業権に関しては、5年半の移行期間を設定(当初の英国側の主張は3年)、その間、EU船籍は英国の排他的経済水域(EEZ)へのアクセスを確保する代わりに、漁獲量は現行の25%減で決着がついた。ただし将来この割当てが変化した場合に、英国からの輸入品に対する関税賦課というEU側の提案は却下された。さらに詳細がほとんど公開されていなかった紛争解決メカニズム(協定で規定されたルールの順守や、これに一方が従わなかった場合の報復措置の内容)に関しては、調停機関としての欧州司法裁判所(ECJ)の役割は外され、英国側の主張が通った格好となった。
◆英国議会は現在クリスマス休会中だが、48時間の通知期間後に再招集可能となっているため、年内に協定合意の議会批准を行う予定である。英国政府は新型コロナウイルスの変異種「B.1.1.7」による感染拡大を受け、対応に追われる厳しい状況が続いている。12月21日には、変異種への懸念からフランスが突如国境を封鎖したことで、英国ケント州に1,000台を超す長距離トラックが足止めされ、合意なき離脱の予行演習とでもいうべき事態が起きた。食料不足の可能性が現実的になったことから、協定批准に反対し、合意なき離脱に進む覚悟のある議員は少ないとも考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
-
欧州経済見通し トランプ関税で高まるリスク
最悪シナリオは報復関税による貿易戦争
2025年02月26日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日