サマリー
◆6月8日に予定されている英国総選挙は、各政党が改めてブレグジットへのスタンスを示す機会となる。現在のところ、強硬離脱(ハード・ブレグジット)を志向し、EUとの交渉に毅然とした態度で臨むメイ首相率いる保守党の支持率が圧倒的に高い。その要因として、既に英国民の多くはブレグジットを受け入れ国民投票のやり直しを求めてはいないことが挙げられる。
◆一方、欧州委員会は5月3日、英国との離脱交渉に関する指令案を発表している。このEU側の離脱指針が示されている指令案では、法外な手切れ金(報道では1,000億ユーロ:約12兆円)や、現在英国に居住するEU市民の権利を離脱後も永遠に認めることを要求するなど、あくまで強気であり、英国側の主張と真っ向から対立している。
◆メイ首相は、離脱後のEU市民の権利に関して一定の理解を示したものの、政権公約で年間純移民数10万人の目標を掲げており、EU域内外問わず移民流入抑制は譲れない姿勢を示している。保守党は、2010年のキャメロン政権発足以降、同様の目標を掲げていたが、EU域内からの純移民数だけでも年間16.5万人(2016年9月末時点)と推計され、現在までこの目標を達成できたことはない。
◆2017年に入り経済指標の悪化は予想を上回るものであり、企業景況感は楽観的だが、英国経済は1月~3月期でモメンタムを失ったとの指摘も増えつつある。EU側との離脱交渉が難航した場合、次回のインフレーション報告書の発表(2017年8月)時点で、大きな見通しの変更があることに留意すべきであろう。今回の総選挙は、保守党の圧勝がほぼ確実視されているが、肝心なのはその先のEUとの交渉の行方であり、交渉が難航した際、英国経済にどのようなリスクシナリオが生じるかであろう。
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