サマリー
◆10月20日-21日の日程で開催されたEUサミットは、英国がEUから孤立する状況が鮮明に示された場となった。メイ首相は、英国がEUを離脱するまでは、欧州の会合や意思決定において引き続き中心的な役割を果たしたいと発言し、多くのEU 首脳の反発を買った。スコットランド民族党(SNP)のスタージョン党首は、このまま(単一市場へのアクセスを確保できず)ハード・ブレクジットへの道を選ぶのであれば、スコットランドは再度独立の住民投票を辞さないとし、第2次投票に関する法案提出を党大会の演説で約束した。
◆リスボン条約50条は、「加盟国は憲法の手続きに従って離脱する」との記述のみで、明確なプロセスの定義はなく、議会採決が必要か否かは各国の判断に委ねられている。一方で、50条行使に議会採決の是非を問う司法審査が英国高等法院で行われており、政府代表の弁護団が、50条行使を含むEU離脱に関するあらゆる取り決めについて、議会採決をする必要性が高いと発言したことが波紋を呼んでいる。
◆WTOのような協定がない金融サービスは、仮に2017年初にリスボン条約50条を行使した場合、2年後の2019年初以降にEUパスポートが失効した時に業務停止のリスクを抱えることとなる。これに対処するために、シティに欧州本店を置く金融機関は業務遂行のコンティンジェンシープランの策定を急いでおり、2017年第1四半期から本格的に英国から他のEU加盟国へ業務移転をスタートさせる意向を示しつつある。英国政府が迷走する状況に嫌気が差し、英国からの撤退・移転を検討する企業がさらに増加する可能性も高く、一刻も早い政治的な安定とブレクジット後の方向性の提示が待たれている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日