サマリー
◆10月26日、欧州中央銀行(ECB)は、かねてから実施していた資産査定(AQR:Asset Quality Review)および健全性調査(ストレステスト)を含む包括的審査(Comprehensive Assessment)の結果を公表した。結果が注目されたストレステストでは、過去の結果を上回る130行中25行が検査不合格となり、資本不足額は悪化シナリオベースで246億ユーロに達している。
◆国別の不合格行を見るとイタリアが最大で9行、ギリシャ、キプロスが3行、ベルギーとスロベニアが2行、フランス、ドイツ、オーストリア、アイルランド、ポルトガル、スペインで各1行となっている。また不合格のうち12行はすでに現時点(2014年9月末時点)で資本調達等の対応を行っており、残りの13行に対しては、11月10日までの2週間の間に資本増強計画等をECBに提出することが求められている。
◆異例の日曜日に発表ということもあり、シティでは大手行の検査不合格などの情報も錯綜していた。ただし、当初から想定されていた通り、不合格行は南欧諸国の中規模の銀行が中心であったため大きなサプライズはなかったといえる。その一方で、肝心なのは、AQRの結果であろう。特に、審査基準で使用した不良債権の定義として、90日間延滞が生じた貸出に関しては、減損を実施したり債務不履行(デフォルト)と認識されていなくとも不良債権に識別されることとなっていたことは重要な事実として認識すべきである。
◆さらに、今回対象となったリスクアセットは2013年12月末時点であるため、今年発生したウクライナ問題などの地政学的リスクによる影響が織り込まれていないことは十分留意する必要があるだろう。特にロシア向け与信残高が多いフランス、イタリア、中欧・東欧地域の銀行ではさらなるリスクアセットの毀損が生じることは容易に想像できるといえる。
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