中国社会科学院「『ソロス氏たち』の空売りを防止するには転ばぬ先の杖が必要」

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2016年04月11日

  • 李春頂

金融界の大物たちの何気ないひと言は往々にして市場に無限の想像を引き起こす。ジョージ・ソロス氏は先ごろ開かれたダボス会議でメディアのインタビューを受けた際、世界がデフレ圧力に直面していることから、米国株式市場の先行きを悲観し、アジア通貨を空売りしていることを表明した。この発言によって、人民元と香港ドルの「空売り」に対する憂慮や1997年のアジア金融危機の再来について議論が起こった。


2016年初めの人民元為替市場の波乱や、香港の外貨市場や株式市場での変動は、市場の憂慮に「格好の」材料を提供することになった。実体経済のファンダメンタルズがあまりよくないことから、新年当初は短期的に人民元為替相場が下落し、リスク資産が投げ売りされ、市場にパニック心理が蔓延した。中国人民銀行がそこへ速やかに介入し、オフショア市場から着手して、オフショアとオンショアの為替レートの差額を縮め、空売りのコストを引き上げ売り手に打撃を与えると、劣勢だった人民元為替相場は安定に転じた。香港でも空売りがしかけられ、近頃では香港ドルと香港株式の両方が下落する事態に遭遇している。


世界経済、金融市場ともに振るわない状況は投機家に空売りの機会を与えた。このような時に空売りに対する憂慮の意識を持つことは必要であるが、市場の「ソロス氏たち」の空売りに対する懸念と詮索は度を超していた。まず、ソロス氏の発言で最も多いのは金融市場に対する判断と投資機会の分析であるが、これは人民元や香港ドルのみに対するものではなく、悲観的な内容を全て中国と結び付けて捉える必要は全くない。ソロス氏はアジア通貨の空売りについて言明すると同時に、米国株式の空売りについても述べているが、これに対して米国の金融市場が騒然とする事態は起こっていないことから、中国についても心配する必要はない。次に、先頃の人民元為替市場や香港の外貨・株式市場における短期の変動は、世界の金融市場が不安定であるという背景の下で中国市場に波乱を引き起こしたもので、決してシステミックなものではない。信用買いと空売りは金融市場の投資と投機の必然の行為であり、変動は金融市場の常態であり、一時の短期的な変動に対して際限のない憂慮を抱く必要はないのである。


実際、人民元や香港ドルを空売りすることは口で言うほど容易ではない。中国の実体経済のファンダメンタルズは良い方向へ向かっており、成長速度はいくらか低下しているものの、依然として世界経済をリードしており、経済が長期間あるいは急激に落ち込むなど空売りの機会は揃っていない。同時に、中国は世界第二の経済大国であり、巨額の外貨準備を保有し、為替市場変動に対応する能力は少数の投機家たちによって揺さぶられるものではないと推測する。ほかにも、中国の金融市場の開放は順を追って進められ、管理されており、人民元の資本取引はまだ開放されていないことから、国内の金融派生商品や株式市場へは参入できない。このような状態で中国の金融市場で空売りを行おうとすることは全く現実離れしている。また、「ソロス氏たち」の戒めとなっているのは、1997年のアジア金融危機の際、香港の外貨市場と株式市場を狙い撃ちして惨敗した過去の教訓であり、これが投機家たちに二の足を踏ませている。


だが同時に、「ソロス氏たち」の発言は全く根拠がないわけでもない。中国経済は今まさに転換期と高度化の局面、さらなる改革の深化と開放の十字路にある。新常態下の経済成長率の低下と質の向上、輸出貿易が直面している産業転換と成長速度の低下、実体経済のファンダメンタルズが楽観できないなど、金融市場の動揺と空売りを誘う環境は揃っている。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ予測は人民元の対米ドル相場下落の予測を強め、それは別の面から人民元の空売りの余地を与えた。両方からの圧力に対し、「ソロス氏たち」はすでに試み的な行動を起こしている。このような背景により、転ばぬ先の杖として空売りを防止する政策措置を制定することも恐らく欠かせないだろう。


空売り防止の根本的な措置は、経済のファンダメンタルズを向上させ、実体経済の発展と対外輸出の回復を促進することにより、強い実体経済をもって金融市場の空売りの基を取り除くことである。二つ目の措置は、中国の金融市場を段階的に開放し、金融の監督とコントロール能力を高め、金融市場をコントロール可能な範囲内で運営して、リスクに充分注意することである。三つ目の措置は、転ばぬ先の杖としてある程度事前に準備すること、空売りの背景の下ではできるだけ早く、緊急時のコントロール手段と救済システムを構築する必要がある。四つ目の措置は、国内外の多くの機関は協働しうる手段を持たなければならない。年初のオフショア人民元の防衛戦では主に、国内外の多くの機関が協力して、短時間のうちに海外市場で強力に人民元の買い注文を形成しうることを経験した。五つ目の措置は、1997年に香港で空売りの対応をした経験を教訓とすることである。空売りの危機が発生した場合、その危険性を重視し全力で対応すると同時に、法規を改正することで空売りに乗じる隙を与えないようにしなければならない。


「ソロス氏たち」の発言は、市場に対する探索であり、同時に空売りの機会を盛り立てることで、憂慮とパニックの心理を形成し、空売りへの誘因を作り上げることを期待したものである可能性が高い。我々はソロス氏の「蜃気楼」のような幻影を過度に懸念したり詮索したりする必要は全くない。金融市場の短期的変動は避けられない常態であり、今後中国の金融市場が徐々に開放されていく道にはさらに多くの起伏やリスクがあるはずであり、平常心を鍛錬し、転ばぬ先の杖となる防止システムを作り上げていく必要がある。

(2016年2月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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