中国社会科学院「今後の不良債権に対応するために実施すべき三つの方策」

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2018年03月08日

  • 世界経済・政治研究所 張明

2010年から2016年にかけて、中国の経済成長率は10.6%から6.7%に低下した。マクロ経済の減速に伴い、経済成長の安定化を図るため、中国政府は様々な方策を講じた。もちろん金融緩和策の拡大もその一つである。その結果、6年間で融資あたりの経済成長率は明らかに低下した。同時に、経済成長に必要とされる融資規模は拡大する一方だった。要するに、金融緩和による経済成長は持続可能ではないのだ。経済の安定化とともに、経済成長率の維持は問題ではなくなった。しかし、長期にわたり金融緩和を実施した結果、金融リスクの増大が無視できなくなった。そのため、中国政府は経済政策の重心を成長からリスク管理に置くようになった。その理由は二つある。一つは、資産価格が実体経済から離脱してバブル化(=虚構経済)する現状を打破し、金融システムを補強すること。もう一つは、金融リスクの連続的な発生を防ぐことである。

2016年末から、中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国保険監督管理委員会(通称「一行三会」)は「リスク管理、レバレッジ解消」に注力し、これによって、金融リスクの発生を回避している。新たに発足した国務院金融安定発展委員会も調整役として「一行三会」の監督管理を円滑化させる機能を持っており、監督管理の空白を埋め、「一行三会」の組織間の管理監督権の争奪戦を防ぐことにもつながった。第19回党大会の報告は、金融政策とマクロ経済に対する慎重な管理監督を並行して行う方針を再び盛り込んだ。それは、党大会以後も比較的厳しい金融政策が継続することを意味する。さらに、同報告は不動産価格のコントロールと為替相場の安定も、マクロ経済に対する慎重な管理監督の対象範囲とすることを記している。客観的に言えば、ここ数年で急速に規模が拡大した金融システムは、金融業に対する監督強化によって方向転換を余儀なくされた。

商業銀行全体の不良債権リスクはまだコントロール可能だが、不動産市場で大きな調整が生じれば、不良債権比率が大幅に上昇する可能性がある。ここ数年、短期間で資産と負債規模を急拡大させた中小銀行の不良債権リスクが特に大きくなっている。資産側を見ると、一部の中小銀行のバランスシートの拡大速度は大手銀行を遥かに上回っている。しかし、近年の企業の投資収益率はおおむね低下しつつあり、資産を拡大させた中小銀行の潜在的な不良債権比率は相対的に高いと考えられる。他方、負債側を見ると、近年、一部の中小銀行はインターバンク市場を通じて短期資金を調達し、レバレッジをかけることで満期の長い投融資を行う傾向が強い。金融政策の変化または金融市場の変動により短期金利が上昇すると、中小銀行の負債コストはそれに連動して上昇する。場合によっては、資産と負債の満期のミスマッチに内在する金融リスクが顕在化する恐れもある。

1990年代末から2000年代初頭にかけて、中国の商業銀行は大規模な不良債権を処理した。主な処理方法は、財政部が特別国債を発行して調達した資金を四つの資産管理会社に注入した後、四つの資産管理会社がそれぞれ4大国有商業銀行(訳者注:中国工商銀行、中国人民建設銀行、中国銀行、中国農業銀行)から簿価で不良資産を買取り、それを処理するという形だった。つまり中央政府の財政が銀行の不良債権を肩代わりしたことになる。中央政府が資産管理会社を設立し、商業銀行の不良債権を移管することで、商業銀行は不良債権問題から解放され、その後、国内外の市場で上場することになった。しかし、当時と同じ方法で今日の不良債権に対応することは難しい。理由は五つある。第一に、中央政府の債務水準が当時を遥かに上回っていることである。1990年代末、中央政府の債務残高の対GDP比は20%未満だった。また地方政府も債務を抱えていなかった。現在は全く違う状況だ。政府によれば、中央と地方政府の総債務残高対GDP比は60%前後にまで上昇している。ここ数年、PPP(Public-Private Partnership)の手法が多用されているため、地方政府が抱える実質的な債務規模は拡大する一方だ。関係者の推計によると、中国の中央と地方政府の総債務残高対GDP比は、実はすでに80‐90%に上昇している。債務規模がかなり大きいため、かつてと同様に政府が銀行の肩代わりをすることはもはや不可能だ。第二に、前回の不良債権処理において、その対象となった4大商業銀行はいずれも国有銀行であり、政府が介入して不良債権をすべて処理した。現在、中国の銀行には様々な形態があり、債務整理の手法も違えば、政府に助けてもらう立場にもない。第三に、政府が銀行の不良債権を安易に肩代わりすれば、銀行は自ら問題を解決しようとしないというモラルハザードが発生するだろう。第四に、現在の銀行業は収益もよく、資本金と不良債権処理のための引当金が潤沢にあり、不良債権を処理する能力をある程度有している。第五に、20年前と比べて中国の金融市場は発展し、市場を通じた手法で不良債権を処理する潜在力を持っている。

今後、一部の商業銀行の不良債権比率が顕著に上昇すれば、「三つの方策」を実施して対応することができる。第一は、商業銀行が自ら不良債権を部分的にせよ処理することである。現状では、商業銀行のほとんどは資本金と不良債権処理のための引当金を十分に積んでいる。従って、商業銀行はまず準備金で対応し、準備金が足りない場合、資本金を活用することもできる。銀行が自ら不良債権を処理することこそが本当の意味での市場重視であり、銀行のリスク管理意識の向上ならびに経営理念への反映を促すことにつながる。

第二は、商業銀行の不良債権の一部を市場価格で不良債権処理会社に売却して処理する方策である。もちろん、銀行は不良債権を売却すると、一定の損失を被ることになる。そのため、専門的な資産評価機構を通じて、不良債権に対する正確な評価を行わなければならない。あるいは、第三者の力を借りて不良債権を証券化する手段もある。すなわち、商業銀行がリスクを共有しない特別目的事業体(SPV)に不良債権を譲渡し証券化させる。ただし、不良債権をバランスシートから切り離した商業銀行は、不良債権の譲渡後に一切の追加責任を負わないことを原則とする。

第三は、銀行が不良債権を自ら処理し、さらに証券化してもなお、依然として資本不足が顕著な場合、中央政府、地方政府、有力な国営企業と民営企業は、銀行に資本注入を行い、銀行の株式の一部を取得する方策である。その際、銀行と株主の利益を公平に扱うため、銀行資産に対して透明性をもって厳密に査定した上で、結果を公開しなければならない。

最後に、今後、中国の商業銀行の不良債権処理が行われる中で、二つの分野が伸びるであろうことを記しておきたい。

一つは債権の証券化である。商業銀行には不良債権を証券化する強い意欲がある。また、不良債権を処理した後に、優良債権の証券化を通じて、資産回転率を向上させ活性化を図ろうとする銀行が多い。債権の証券化によって、総資産回転率とレバレッジ比率が改善し、最終的には商業銀行の資本収益率が上昇することは我々の研究でも明らかになっている。また、証券化商品の氾濫を避け、その透明性を保てば、商業銀行における資産証券化の損失は許容範囲に収まるであろう。

伸びると見込まれるもう一つの分野は、不良債権の市場を通じた処理である。上述した通り、市場を通じた不良債権処理は、必ず重要な役割を果たす。言い換えれば、不良債権の査定、処理、再生などの業務に携わる専門的な独立機関は必ず大きく成長するだろう。これまでに、不良債権処理を主業務とする投資ファンドが多数誕生し急成長し、市場の新たな分野として、すでに注目を浴びている。

(2017年11月発表)

※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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