本業の製造事業からサービス事業強化の背景~3類型にみる労働生産性、就業者構造の変化~
人口減少の中で求められる生産性向上 第3回(製造業)
2015年07月23日
サマリー
◆製造業を基礎素材型、加工組立型、生活関連型の3類型に分類、それぞれの類型における労働生産性、就業者構造を明らかにし、労働生産性の向上について検討する。
◆2007年から2013年の期間で、製造業全体では付加価値額、労働生産性がともに低下した。基礎素材型は、同期間で付加価値率(付加価値額/製造品出荷額等)が10%減少した影響が大きい。反対に加工組立型は、同期間で1人あたり出荷額(製造品出荷額等/就業者数)が6%減少したが、製造品出荷額等の減少が影響した。生活関連型は、労働生産性は横ばいであったが、事業所あたり出荷額(製造品出荷額等/事業所数)が他の類型より低く、労働生産性の水準が他の類型より低い要因となっている。生活関連型は他産業への影響力や他産業からの感応度が低く、小規模な事業所が多いが、それ故に集約化や機械化によって労働生産性を向上させる余地が残されている可能性がある。
◆2007年から2014年の期間で、製造業全体では就業者が減少した。15~24歳の減少が大きく、65歳以上は若干増加した。若者の減少が特に著しいのは加工組立型であり、時期により出向・派遣の就業者数が大きく増減している。生活関連型は、高齢者、女性、非正規雇用の比率が他の類型より高く、パート・アルバイトが多く(非正規雇用者の85%、全就業者の36%)を占める。
◆製造業全体で見ると、従事者の職業分類が本業の製造関連からサービス関連にシフトしている。製造業の就業者数が伸び悩む一方で、働き方に対する考え方は多様化しており、今後はサービス事業に高齢者、女性、非正規雇用といった人材の活躍を推進することで、サービス事業の付加価値を高めることが重要になる。
◆国は「ものづくり白書」や「骨太方針」において、製造業については、国内・海外の棲み分けやITの活用などによる産業構造改革に取り組む姿勢を見せる。ドイツや米国でも、ITを活用して、製造業のさらなる発展に向けた取組みが見られる。ITの活用は、製造事業だけでなくサービス事業の強化にも資すると考えられる。日本の製造業が、製造事業のさらなる効率化だけでなく、就業者構造も含めたサービス事業の強化によって付加価値を高め、製造業全体で労働生産性向上を実現することに期待したい。
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