サマリー
本稿では、政府の医療保険制度における応能負担の強化策として検討項目の一つに掲げられている「医療費自己負担への資産勘案」について、具体的検討を進める際の主要論点を整理する。医療費自己負担への資産勘案とは、70歳以上の高齢者につき、所得だけでなく資産も勘案して医療費自己負担割合を判定し、最大で70歳未満と同様の3割の負担とすることである。
先行研究を踏まえると、負担能力のある高齢者に限って自己負担割合を引き上げても、健康状態への影響は限定的と見込まれる。ただし、医療費自己負担への資産勘案は「負担は能力に応じて、給付は必要に応じて」という社会保険の原理原則に大きく抵触する。また、仮に医療費自己負担に関して資産を勘案する場合は、70歳以上の高齢者に対する3割を下回る自己負担(7割を上回る給付)につき財源構成も含めた理論的整理も必要である。
医療費自己負担への資産勘案の導入は、国民の資産形成や資産選択に歪みをもたらす懸念もある。英・米の社会扶助的な制度における資産捕捉においても、自己申告と福祉事務所等の調査に依存し、国民の金融資産情報の当局への定期報告は行われていない。医療費自己負担への資産勘案を検討する際は、非常に多くの難しい論点に照らした政策判断が求められる。

大和総研調査本部が長年にわたる知識と経験の蓄積を結集し、的確な現状分析に基づき、将来展望を踏まえた政策提言を積極的に発信していくとのコンセプトのもと、2011年1月に創刊いたしました。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
医療等情報の一次利用を広げるには
広範な閲覧・迅速な共有・義務化へ移行で拡大する豪州の一次利用
2026年03月12日
-
中小企業の従業員に資産形成機会の充実を
勤労者への資産形成機会の拡大、金融所得格差の是正に向けて
2025年12月29日
-
介護情報基盤の構築に向けた現状と課題
全国実施の遅れは地域包括ケアシステムの推進にもマイナスの影響
2025年07月10日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
-
いまさら人には聞けない 大量保有報告(5%ルール)のQ&A 【改訂版】
2024年金商法等改正法(2026年5月1日適用開始)を反映
2026年04月03日
-
検討進むガバナンス・コード改訂:2月案と4月案の相違点は
「解釈指針」は原則と一体という記述は削除。現預金への注目を避ける修文。
2026年04月10日
-
企業が意識すべきCGコード改訂案のインプリケーション
「金融資産」「実物資産」がコードに入った意味
2026年04月16日
-
日本経済見通し(2026年4月)
中東情勢緊迫による景気下振れリスク上昇で4月利上げは見送りか
2026年04月21日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
いまさら人には聞けない 大量保有報告(5%ルール)のQ&A 【改訂版】
2024年金商法等改正法(2026年5月1日適用開始)を反映
2026年04月03日
検討進むガバナンス・コード改訂:2月案と4月案の相違点は
「解釈指針」は原則と一体という記述は削除。現預金への注目を避ける修文。
2026年04月10日
企業が意識すべきCGコード改訂案のインプリケーション
「金融資産」「実物資産」がコードに入った意味
2026年04月16日
日本経済見通し(2026年4月)
中東情勢緊迫による景気下振れリスク上昇で4月利上げは見送りか
2026年04月21日

