サマリー
◆2013年12月に社会保障改革プログラム法が成立し、施行された。今後は2014~15年の通常国会で個別の法案が審議されることになる。また同法は、内閣に社会保障制度改革推進本部と社会保障制度改革推進会議を設置することを定めている。国民会議では定量的な議論が乏しかったため、推進会議の発足後は定量的な把握や、制度の持続可能性が確保できないと見込まれた場合の追加的な給付抑制や負担増を具体的に検討する会議となることが期待される。
◆制度改革について概観すると、医療・介護分野について重点的に取り上げられており、以前から問題となっていた医療提供体制の見直しが実行段階に入ったことは高く評価できる。また、後発医薬品のさらなる使用促進やICT・レセプトデータを用いた需要抑制といった取組みも行われる予定である。負担の見直しに関しては、低所得者の負担を軽減する一方で高所得者の負担を重くするという応能負担を強める方向性が鮮明である。
◆応能負担を強めることはある程度避けられないが、それは高齢者も含めての話である。高齢者層はとりわけ所得格差が大きく、平均的には現役世代よりも豊かであることを踏まえるべきであろう。応能負担の考え方を公正に導入するためにも、資産を含めて各人の負担能力を正確に把握できるような情報インフラが不可欠である。
◆年金制度については、国民的関心の強い主要な改革論議は先送りされた。特に、マクロ経済スライドについて具体的な改革の方向性が示されなかったのは残念である。今回の制度改革を概観すると、充実化としての給付増加や保険料減免が確実である一方で、重点化・効率化による給付抑制効果が不透明である。給付抑制が想定よりも進まなかった場合に備え、「応益負担」を強めるといった追加策について議論を深めておくべきである。
◆制度改革の全体像が示されたが、それでも政府の財政健全化との整合性は曖昧である。政府は今後、社会保障改革プログラム法で設置が決まった社会保障改革推進会議での議論を経て、財政健全化と整合的な社会保障制度改革の姿を示す必要があろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
三度目の正直を期待したい~実効性の確保が求められる財政健全化計画
成長力強化と歳出改革を実現すれば20年度にPBが黒字化する可能性
2015年07月23日
-
2015年度介護報酬改定と介護費用の中長期見通し
社会保障・税一体改革からさらに踏み込んだ議論を
2015年02月27日
-
日本経済中期予測(2014年2月)
牽引役不在の世界経済で試される日本の改革への本気度
2014年02月05日
-
来春の消費税増税後の焦点
逆進性の問題にどう対処すべきか
2013年09月20日
-
これで社会保障制度改革は十分か
「木を見て森を見ず」とならないよう財政健全化と整合的な改革を
2013年10月11日
同じカテゴリの最新レポート
-
介護情報基盤の構築に向けた現状と課題
全国実施の遅れは地域包括ケアシステムの推進にもマイナスの影響
2025年07月10日
-
医療等情報の二次利用に向けた環境整備
医療DXの効果を可視化し、一次利用を広げることがカギ
2025年06月12日
-
対象者拡大から8年、今後のiDeCoの可能性
iDeCo加入者数363万人(2025年3月末)、対象者拡大前の12倍に
2025年05月27日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日