サマリー
◆政府は2014年4月の消費税増税を予定通りに実施する方向で最終調整に入った模様である。安倍首相は10月上旬に増税実施の最終判断を行う見込みであるが、法律通りの増税スケジュールが変更される可能性は低い。社会保障制度の持続性を高め、財政健全化を進めるための消費税増税ではあるが、増税である以上は景気の悪化は避けられない。問題は景気がどの程度悪化するかである。2015年10月の増税前には改めて経済状況の点検が行われるため、今回の一連の増税全体がもたらす経済への影響を整理しておくことは有用である。
◆マクロモデルを用いてシミュレーションすると、3%ptの消費税増税は経済成長率を0.7%pt程度押し下げる。1度に引き上げる税率を小さくした方が経済へ与える悪影響は小さいが、引上げスケジュールを変えるメリットがデメリットよりも十分に大きいとは思えない。政府は今後、財政健全化の目標を達成する道筋を社会保障制度改革の成果と整合的な形で示す必要があり、さらなる消費税増税など追加の国民負担増が避けられないのであれば早期に議論を開始すべきである。
◆消費税は、所得水準に関係なく消費額に対して定率の税負担が課されることから、所得の低い人ほど税の負担率が高くなるという「逆進性」の問題がある。2015年10月の消費税増税時には、逆進性対策として軽減税率の導入が与党内で検討されている。しかし、軽減税率は逆進性をある程度緩和するにとどまり、それを解消できるわけではない。また増税で得られる税収は軽減税率を導入しない場合よりも減少するため、その減収分に見合う分だけ標準税率を引き上げる必要がある。さらに、政治的コストの上昇と消費税の非効率化をもたらすリスクもある。こうしたことに十分注意したうえで、導入の是非を判断すべきである。
◆軽減税率の導入が逆進性対策として不十分である理由は、軽減税率の恩恵が低所得者だけでなく高所得者にも及ぶためである。消費税で対処するのではなく、給付付き税額控除によって調整する方が望ましい。番号制度の導入前である2015年10月の消費増税時までは、次善の策として簡素な給付措置で対応することはやむを得ないが、2016年以降は番号制度の定着を図り、真の低所得者に限定して給付付き税額控除を行うことが望まれる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
今春から本格化する社会保障制度改革
真の意味での社会保障・税一体改革の姿を示すべき
2014年01月29日
-
消費税増税等の家計への影響試算 (平成26年度税制改正大綱反映版)
2011年から2016年までの家計の実質可処分所得の推移を試算
2013年12月24日
-
これで社会保障制度改革は十分か
「木を見て森を見ず」とならないよう財政健全化と整合的な改革を
2013年10月11日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年6月雇用統計
失業率は4カ月連続で2.5%、就業者数は高水準を維持
2025年08月01日
-
2025年4-6月期GDP(1次速報)予測~前期比年率+1.2%を予想
個人消費が伸び悩むも投資・輸出増などで2四半期ぶりのプラス成長
2025年07月31日
-
2025年6月鉱工業生産
市場予想を大幅に上回る結果も、先行きは関税政策の悪影響に注意
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日