これで社会保障制度改革は十分か

「木を見て森を見ず」とならないよう財政健全化と整合的な改革を

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2013年10月11日

サマリー

◆社会保障制度改革国民会議が提出した報告書の内容に沿って、政策の実施時期や法案提出のタイミングなどを記述したプログラム法案の骨子が2013年8月21日に閣議決定された。同骨子を概観すると、医療・介護分野について重点的に取り上げられており、関連法案が2014~15年度の通常国会に提出され、2014~17年度の間に多くの項目が実施される予定である。


◆医療・介護給付の重点化・効率化は、大きく分けて供給体制の効率性を高める、需要の伸びを抑制するという二つの方向性がある。前者について目玉とされているのが地域包括ケアシステムの構築である。後者については、保険者などが情報通信技術を活用してレセプトなどのデータを分析し、加入者の健康維持や疾病予防を促進することなどが挙げられる。


◆負担の見直しに関する項目に注目すると、応能負担を強める方向性が鮮明である。ただしそれは高齢者も含めての話である。現在の社会保障制度は高齢者を年齢だけで一律に弱者とみなす傾向があるが、高齢者層はとりわけ所得格差が大きく、平均的には現役世代よりも豊かである。超高齢社会においては、負担能力の高い高齢者には現在よりも多くの負担を求めざるを得ないだろう。


◆医療費における前期高齢者の自己負担割合は、本則通り2割へ引き上げることが盛り込まれたが、引上げ方に問題がある。低所得者への負担軽減策は別途さまざまに講じられる予定であり、依然として年齢基準で現在の70~74歳の人々に本来の負担を求めないのはバランスに欠ける。年金制度については、支給開始年齢の引上げなど国民的関心の強い主要な改革論議は先送りされた。特に、マクロ経済スライドについて具体的な改革の方向性が示されなかったのは残念である。


◆報告書やプログラム法案の骨子で最も問題があると思われるのは、社会保障制度改革と政府の財政健全化政策との整合性や関係性が曖昧な点である。政府は今後、社会保障制度改革の効果を財政健全化と整合的な形で示す必要がある。個々の改革の成果を積み上げた場合の財政への影響や、社会保障給付を最大限抑制したとしても追加の国民負担増が発生するならばその規模など、早期に議論を開始すべきである。

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