熊谷亮丸の経済・金融 Foresight 高市政権の成長戦略、骨太の方針で実質賃金は本当に増加するのか?
①時間あたり労働生産性の引き上げ、②1人あたり労働時間の増加、の2点が1人あたり実質賃金の増加に向けたカギ
2026年06月25日
サマリー
◆現在、高市政権が策定中の成長戦略、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)では1人あたり実質賃金の増加に向けた具体策を提示することが不可欠である。
◆最近、わが国では、1人あたり実質賃金低迷の理由を、労働生産性ではなく、もっぱら「労働分配率(=企業が生み出した付加価値のうち、どれだけが従業員の人件費に充てられているかを示す指標)」の低下——すなわち、経済の分配面に求める議論が横行している。しかしながら、筆者は、こうした考え方には非常に懐疑的である。その理由として、第一に、こうした議論は、労働生産性の伸び率だけに注目しており、わが国の労働生産性の絶対水準が依然として極めて低いレベルにあることを見逃している。2024年の日本の時間あたり労働生産性は米国の52%、OECD平均の76%、1人あたり労働生産性で見ても、米国の54%、OECD平均の76%の水準にとどまっている。第二に、労働分配率を測定する際には、しばしば統計的な誤差が発生する。『経済財政白書』などが通常用いるデータで国際比較を行うと、わが国の労働分配率は低すぎるわけではなく、国際標準並みである可能性が高い。第三に、近年日本の労働生産性が主要先進国と比較して遜色のない伸び率を示してきたことは喜ばしい限りであるが、米国と比べると、その伸び率は遥かに劣っている。
◆実際、過去20年間の米国と日本の「1人あたり実質賃金の伸び率(年率)」の差は1.5%ポイントであるが、これを、①時間あたり労働生産性、②1人あたり労働時間、③労働分配率、④交易条件、⑤保険料等の企業負担、という5つの要因で寄与度分解すると、①が0.6%ポイント、②が0.6%ポイントと、この2つの要因の影響が圧倒的に大きいことが確認できる。
◆結論として、わが国で1人あたり実質賃金を増加させるには、①時間あたり労働生産性の改善と、②心身の健康維持と従業者自身の選択を前提にした上での1人あたり労働時間の増加、の2点をまずは優先するべきだ。高市政権の成長戦略、骨太の方針では1人あたり実質賃金の増加に向けた具体策を提示することが強く求められることになるだろう。
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