サマリー
◆日本経済はデフレ問題を克服しつつある一方、構造的な課題が山積している。人口動態面から将来を見据えると、「老年人口指数」(生産年齢人口に対する65歳以上人口の比率)の上昇ペースがピークアウトする2040年を視野に入れる必要がある。そこで、全3回で構成される「2040年度を見据えた日本の長期展望」シリーズレポートを作成した。シリーズレポートのNo.1である本稿では経済成長に焦点を当てる。また、本稿と同日に公表するNo.2では社会保障制度改革、No.3では財政健全化を検討する。
◆人口減少が続く日本は、少なくとも労働・資本面からの大幅な供給力強化が不可欠だ。健康・就労継続による高年齢者の活躍や外国人労働者の積極的な受け入れなど、労働関連政策の効果が最大限発現すれば、GDPは2040年度で約86兆円押し上げられる。資本ストックは約250兆円不足していると試算され、限界生産性の高いIT機器やソフトウェア、人的資本などへの投資拡大の余地は大きい。宿泊・飲食業や介護業などの資本装備率の引き上げも必要だ。起業やR&D投資等への支援強化、労働者の多様化、貿易促進・海外資本の誘致などはTFP向上につながる。
◆上記の分析結果などをもとに3つの経済シナリオを作成すると、2040年度までの実質GDP成長率は「衰退シナリオ」で年率▲0.5%、「現状投影シナリオ」で同+0.3%、「高成長シナリオ」で同+1.5%と見込まれる。衰退シナリオは何としても避けるべきだが、現状投影シナリオでも長期停滞から脱することができない。シリーズレポートNo.2、3で示すように、社会保険料の上昇と財政の悪化が急速に進むため、いずれ衰退シナリオに移行する可能性もある。
◆高成長シナリオが実現すれば、現役世代の可処分所得が持続的に増加する。子どもを産み育てやすくなり、出生率の上昇も後押しするだろう。ただし、仮に高成長シナリオを実現しても、社会保険料率と公債等残高対GDP比の上昇は続く見込みである。経済・社会保障・財政の三位一体改革が必要だ。
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