サマリー
◆2025年1月、中国のスタートアップ企業DeepSeekが新しいAIモデルを発表したことが契機となり、NVIDIAをはじめとする米国のAI関連企業の株価が大幅に下落した。この出来事は、その大きな経済的影響から「DeepSeekショック」と称された。
◆DeepSeekが注目されたポイントとして、①フロンティアモデルと同等の性能、②低コスト・短期間での開発、③機能の制限された計算資源(GPU)を使用、④利用コストが低いという点が挙げられる。これらのAI開発における従来の常識を覆す発表により、米国企業が巨額の資金投入によって先行していたAI関連技術の優位性が損なわれる可能性、高性能な計算資源(GPU)の需要が減少する可能性が懸念された。
◆DeepSeekの発表した推論型AIモデルは、汎用人工知能(AGI)の実現に向けて高い技術力が評価される一方、地政学リスクから使用制限を発表する国も多く、短期的には米国企業が優位な状況に変化はないだろう。しかし、AIモデルがオープンソースで公開されたことで、長期的には高性能なAIモデルのコモディティ化が進行し、米国企業の技術的優位性が損なわれる可能性はある。
◆また、DeepSeekの発表したAIモデルの学習の効率化は、高性能なAIモデルの開発に高性能な計算資源(GPU)が必須でない可能性を示した。一方、今後実現が期待される汎用人工知能(AGI)等の開発には、高性能な計算資源(GPU)が重要視されている。そのため、将来的なAI市場の拡大も踏まえると、高性能な計算資源(GPU)の需要が減少するとは考えにくい。
◆AI技術が急速に進化し、実用化が進められるようになってからまだ日が浅く、技術革新等により容易に情勢が変化する可能性があることは認識する必要がある。また、今回のDeepSeekの発表に関連した報道により、国家安全保障の観点でAIの重要性が再確認された。日本においても、自国のAIモデル開発を推進していくことが、今後ますます重要となるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年4月貿易統計
輸出金額は7カ月連続の増加も、先行きの不透明感は継続
2025年05月21日
-
経済指標の要点(4/16~5/19発表統計分)
2025年05月19日
-
2025年1-3月期GDP(1次速報)
民需は増加するも、純輸出の減少などで4四半期ぶりのマイナス成長
2025年05月16日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日