高年齢者雇用レポート①日本:労働力率の引き上げに向けて

働き方の多様化を通じた就労インセンティブの改善

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2015年07月13日

  • 児玉 卓

サマリー

◆65歳までの雇用確保を企業に義務付けた「高年齢者雇用安定法」の改正は、60~64歳階級の高年齢者の労働力率を引き上げ、失業率を低下させるなど、一定の成果を上げている。ただし過半の企業が「再雇用制度」によって対応し、雇用延長に当たって賃金を大幅に引き下げるといったケースが多く、これが高年齢者の就業継続インセンティブを阻害している可能性がある。とはいえ、年功賃金がもたらす「賃金>生産性」を終わらせる役割を担ってきたのが60歳定年制であり、企業とすれば定年延長や定年廃止によって中高年者の雇用確保を図ることは難しいのが現状であろう。


◆比較的勾配の大きい年功カーブ自体は欧州にも存在し、日本特有のものとは言えない。日本の問題は、長期雇用を前提とした雇用形態の下で、その時々の賃金と生産性のマッチングを図ることがそもそも難しく、結果的に、賃金と生産性の乖離が長期雇用の中で蓄積されてしまう傾向が強いことにある。定年制や「再雇用制度」の問題の一つは、賃金と同等かそれを上回る生産性を上げている被雇用者の就労インセンティブを低下させ、非労働力化する可能性があることであり、こうした社会的損失が高齢化の進展に伴って拡大することが懸念される。


◆従って、望まれるのは、「職務対応型」雇用形態の普及を通じ、各被雇用者のそれぞれの時点での生産性と賃金の乖離を縮小させることである。これは各人の労働力としての評価に、一定の客観性、一般通用性を付与し、外部労働市場を活性化させる契機ともなろう。ただし、従来型の長期雇用を全否定することは適当ではない。長期雇用は企業が企業内人材育成を重視する根拠となっており、外部労働市場がこれを代替することは難しいためである。外部労働市場が担うべきは需給のマッチング機能を通じて、企業の枠を超えた適材適所を促進し、労働市場全体の生産性を向上させることである。


◆職務対応型雇用形態の普及によって、同一労働・同一賃金的な考え方を制度化することがより容易になるとも予想される。重要なことは、働き方の選択肢を増やす中で、高年齢者の就業継続インセンティブを高めることである。生産性と賃金の乖離の縮小は、高年齢者の雇用確保に当たって、定年年齢の引き上げ、或いは定年制の廃止を選択する企業を増やすことにもなろう。

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