ZEBは、ゼロ・エネルギー・ビルディング、またはネット・ゼロ・エネルギー・ビルディングのことである。2009年11月にまとめられた経済産業省の「ZEBの実現と展開に関する研究会」の報告書(※1)では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を「年間での一次エネルギー(※2)消費量が正味(ネット)(※3)でゼロ又は概ねゼロとなる建築物」と定義している。Eをエミッション(CO2排出量)とする考え方もあるが、同報告書では日本の省エネの歴史(※4)と、電力会社ごとのCO2排出係数が大きく異なる(※5)ことをふまえて「エネルギー」のEとしている。
ゼロ化するためには、(1)建築物・設備の省エネ性能の向上、(2)エネルギーの面的利用、(3)再生可能エネルギーの活用 (※6)等と複数の対策を組み合わせる(図表1)。「エネルギーの面的利用」とは、地域冷暖房(※7)によるエネルギー施設の集約や、地域冷暖房のネットワーク化、ゴミ焼却熱など未利用エネルギー(※8)の活用などのことである。日本に多くみられる狭い土地の中高層ビルの場合、ビル単独でゼロ化することは困難だが、ビル外部のエネルギーが活用できれば削減効果が高まるという期待がある。こうした地域内でのエネルギーの融通や、そのためのエネルギー情報の交換は、スマートグリッドの概念と共通するものがあり、ZEBはスマートグリッドの一部をなす「スマートビルディング」ともいえる。
政府は2014年4月に公開した「エネルギー基本計画」の中で、「建築物については、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現することを目指す」としている。
図表1 日本における注「ZEB」のイメージ
注:経済産業省 ZEBの実現と展開に関する研究会報告書 「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現と展開について」における定義
出所:大和総研作成(東京都の図を除く)
(※1)ZEBの実現と展開に関する研究会報告書『ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現と展開について』 経済産業省
(※2)石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料、原子力の燃料であるウラン、太陽熱など自然から直接得られるエネルギー源のこと。これらを加工した電気や都市ガスを二次エネルギーという。
(※3)再生可能エネルギーや排熱などのエネルギー活用も加えた「全体で」という意味。
(※4)1970年代の石油危機を契機に制定された日本の省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)では、一次エネルギーの利用の効率化を目標としている。
(※5)2009年度末に公表された一般電気事業者10社のCO2排出係数は、0.000355~0.000946 (t-CO2/kWh)まで2倍以上の開きがある。この係数は原発の稼働率などにも影響されるため、年度によっても違いが出てくる。
(※6)ここではビルの敷地内又はビルに物理的に接続されている再生可能エネルギー設備による発電を指す。
(※7)ビルごとに設置されるボイラー、冷凍機等の熱源機器を一定の地域において地域冷暖房プラントに集約し、冷暖房や給湯用の蒸気、温水又は冷水等を、配管により供給するシステム。 出所:地域冷暖房「地域冷暖房とは」 東京都環境局
(※8)未利用エネルギーには、この他に「河川水や下水などの水温と気温との温度差エネルギー、地下鉄や変電所などから放出される排熱など」がある。 出所:地域冷暖房「未利用エネルギーについて」 東京都環境局
(2010年5月17日掲載)
(2014年7月28日更新)
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