スマートグリッド(次世代電力網)は世界中で注目(※1)されているが、確立した定義はない(※2)。特徴をまとめると「再生可能エネルギーを含んだ電力網全体の需給の効率化と最適化を、ITを活用して行う仕組み」となる(図表)。
図表 スマートグリッドの概念
HEMS:Home Energy Management System、BEMS:Building Energy Management System、FEMS:Factory Energy Management System
出所:大和総研作成
従来、企業や家庭は電力系統(※3)から送られる電力を使う消費者であった。今後は、太陽光発電など再生可能エネルギーの普及により、多くの消費者が電力を作って売る「供給者」となることが予想される(電力の双方向化)。ただし再生可能エネルギーは、発電量が季節や天候などに左右されることから、安定的な電力を必要とする電力系統や企業が利用するには課題が多い。この課題に対してスマートグリッドは、ITを活用して全体的な発電状況を管理し、個々の再生可能エネルギーの発電量が変動しても電力網全体を平準化することで安定化を図り、大量の再生可能エネルギー導入を可能にすることを目指している。電力網全体の管理ができるということは、障害の早期検知や予防保守の強化にもつながる。
さらに消費者においても、OA機器・家電・電気自動車などの電力需要を管理する、通信機能を持ったスマートメーターや、HEMS(Home Energy Management System)・BEMS(Building Energy Management System)などの制御システムにより、省エネ・創エネ・蓄エネを行う「高度なエネルギー利用」が可能になると期待されている。スマートメーターや制御システムは、複数のエネルギー源からコストとCO2排出の少ないエネルギーを自動選択する、あるいは、猛暑日の昼間のように電力供給が逼迫した時に、エアコンの温度を上げたり優先度の低い機器の電源を切ったりする、などの機能を持つようになる。
このように電力系統から家庭まで電力網全体で再生可能エネルギーの導入と省エネを推進するためには、電力の供給情報だけでなく需要情報も管理することが必要となる(電力情報の双方向化)。こうした情報と、交通、農林水産業、防災、医療などの情報を連携することで、安全・安心社会の構築にも役立つと期待されている。日本をはじめ各国で実証実験が始まっており、電力関連以外の企業も多数、参入している。
(※1)米国では、2003年にニューヨークで大停電が起こったことなどから、信頼性の高い電力網の整備が喫緊の課題となっている。欧州では広域的な電力系統管理や、再生可能エネルギー普及に伴う電力網の受け入れ余力の減少などが課題となっている。これらを背景に、欧米では2003年頃からスマートグリッドの検討がなされてきたが、オバマ政権のグリーンニューディール政策により、2009年に入って世界中で注目されるようになった。
(※2)企業や団体により定義に差異がある。
(※3)電力供給のための、発電・変電・送電・配電を統合したシステム。日本では東京電力など10の電力会社が、それぞれの電力系統を持っている。
(2009年9月28日掲載)
(2013年7月18日更新)
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