「エネルギー政策基本法」(2002年)第12条では、政府は、エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るため、「エネルギー基本計画」を定めることが義務付けられている。また、少なくとも3年ごとにこれを見直し、必要に応じて変更することが求められている。同法のもと、2003年に最初の「エネルギー基本計画」が策定され、2007年に第2次計画、2010年に第3次計画が策定されてきた。この度、2014年4月、第4次計画となる新たな「エネルギー基本計画」が発表された。
今回の「エネルギー基本計画」は、東日本大震災以降初めての策定であったことから、第1章には、海外に依存する日本のエネルギー供給体制の脆弱さ、原子力発電の安全性に対する国民の懸念、電力コスト上昇による日本経済への影響、温室効果ガス排出量の増大など、我が国が直面している課題が率直に述べられている。第2章では、エネルギー政策の基本方針である「3E+S」(※1)の再確認が行われ、電力・ガスシステム改革等を通じて“多層化、多様化した柔軟なエネルギー需給構造”の構築を目指すことが示されている。また、第3次計画では、原子力発電を「基幹エネルギー」として利用拡大する方針を示していたのに対し、本計画では、「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」として縮小路線を示した。再生可能エネルギーの利用については、「これまでのエネルギー基本計画を踏まえて示した水準(原注1)(※2)を更に上回る水準の導入」を目指すとし、さらなる拡大路線を示している。ただ、具体的なエネルギーミックスは、「原子力発電所の再稼働、固定価格買取制度に基づく再生可能エネルギーの導入や国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの地球温暖化問題に関する国際的な議論の状況等を見極めて、速やかに示す」として本計画では提示されなかった。
第3章には具体的な施策が示されており、省エネルギー、再生可能エネルギー、高効率火力発電の利用などの取り組みをこれまで以上に強化していく姿勢が示されている。特に、デマンドレスポンスの活用(第2節)、電力・ガスシステム改革の推進(第6節)、コージェネ・蓄電池の推進(第8節)、水素社会に向けたロードマップの策定(第8節)などが新たに追加されており、需要地域や需要家が積極的に関与する新たなエネルギー社会への期待が寄せられている。
第4章では、課題解決のための技術開発の重要性が述べられており、「環境エネルギー技術革新計画(2013年9月総合科学技術会議決定)」等を踏まえつつ、2014年夏までに戦略的なロードマップを策定するとしている。第5章は、「国民各層とのコミュニケーションとエネルギーに関する理解の深化」と題し、エネルギー問題への関心の高まりに応じた情報提供の体制を作ることや、対話型の政策立案・実施プロセスを社会に定着させていくことの必要性などが述べられている。

(※1)安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)を図ること。
(※2)原注1には、「2009年8月に策定した『長期エネルギー需給見通し(再計算)』(2020年の発電電力量のうちの再生可能エネルギーなどの割合は13.5%(1,414億kWh))及び2010年6月に開催した総合資源エネルギー調査会総合部会・基本計画委員会合同会合資料の『2030年のエネルギー需給の姿』(2030年の発電電力量のうちの再生可能エネルギー等の割合は約2割(2,140億kWh))」とある。
(2014年5月26日掲載)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
再生可能エネルギー
-
デマンドレスポンス
2013年07月10日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日