2015年01月15日
サマリー
◆日本の運輸部門(旅客部門と貨物部門)のCO2排出量(2012年度)は、日本全体の排出量の約18%で、このうち自動車からの排出が90%近くを占めている。本稿は前編として運輸部門のうちの旅客部門(乗用車などによる人流)の低炭素化について考察し、後編で貨物部門(トラックなどによる物流)の低炭素化について俯瞰する。乗用車からのCO2排出量を削減するためには、「質的変化(燃費の改善)」、「量的変化(走行距離や利用頻度の削減)」、「利用方法の変化」の3種類の方法がある。
◆燃費改善は、燃費効率の向上やエコカー化・小型化することであり、国土交通省や経済産業省の支援により、こうした自動車の普及は進んでいる。燃費改善は化石燃料の需要を減少させることにつながり、化石燃料を輸入に頼っている日本のエネルギー安全保障の点からも望ましい対策である。また、各国の燃費規制が厳しくなっていることへ対応する必要性からも、燃費改善への取り組みは今後も継続されるであろう。
◆走行距離や利用頻度を減らすには、公共交通機関などへの転換を図るモーダルシフトが典型的な対策となる。運輸部門の低炭素化に取り組んでいる自治体には、高齢化進展による移動弱者の増加や人口減少が引き起こす公共交通機関衰退などを回避することも目的として、モーダルシフトしやすい街づくりを目指す動きもみられる。
◆利用方法の変化は、シェアリング社会の進展や自動運転の実用化による低炭素化である。海外ではカーシェアリングやコミュニティサイクルの普及によって、雇用増加などの効果を生んでいる例もある。高齢化進展は今後の日本の交通事故削減目標の枷となっているが、この対策として安全な運転を支援する自動運転も注目されている。これらの取り組みは、自動車による公害や交通事故などの外部不経済の解消にもつながる。また、EVやFCVのような電動車は電源としての機能も持つ。
◆3つの変化は、燃料費削減や市場拡大などの経済的効果の他に、今後の高齢化進展などによる社会的な課題への対応になり得る。また、交通事故や大気汚染・騒音などの従来からある社会的課題に対する対策と人流の低炭素化は、いわば表裏一体である。人流と社会的課題を総合的にみていくことで、人流の低炭素化を一層、効率的に進められると共に、社会的課題の解決に貢献することができると考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
モビリティ低炭素化の展開(後編)
消費者の変化に対応するライフサイクルの視点
2015年02月26日
-
家庭部門の低炭素化
電力使用量削減の新たなステージへ
2015年02月19日
-
見て、聞いて、ちょっと未来を考える 第9回
まちがあってこその道路~江東区・コミュニティサイクル~
2014年06月10日
-
エコドライブ推進月間の先にある自動運転
2013年11月08日
-
自動車・交通政策にみる自動運転
2014年11月20日
同じカテゴリの最新レポート
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
生活費危機の時代に重要な「生活賃金」
多様なステークホルダーとの「賃金をめぐる対話」が企業の課題に
2025年09月18日
-
EUサステナ開示規制の域外適用見直しへ
米国とEUは関税合意の一部としてサステナ開示の域外適用を見直す
2025年09月12日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日