サマリー
◆新型肺炎が経済活動に与える打撃が復元可能な範囲にとどまるか、不可逆な規模となるかは、事態の収束速度に依存する。リスク回避的な経済主体を仮定すれば、不確実性の高まりはすなわち、経済活動を縮小均衡に導く可能性を高める。従って現時点では最終的な経済への打撃規模を予見することは不可能だ。事態の展開を見守りつつ、経済活動が縮小均衡に陥るのか否か、確率分布の変化を注視せざるを得ない。そこで本稿では、大胆な仮定を極力排除し、新型肺炎が日本経済に及ぼす影響について論点整理を試みる。
◆既に発生している1-3月期の中国における操業停止を受け、日本企業の現地法人売上が6,852億円程度減少し、営業利益は2,065億円、純利益は1,626億円減少する可能性がある。日本からの輸出は2,880億円減少し、国内生産も590億円減少する懸念が大きい。中国からの訪日外客が100万人減少すると旅行サービス受取額を2,000億円程度押し下げる。さらに日本人の消費および第三国向け需要の減退が加わる。こうした直接的影響に加え、二次的に雇用や設備投資を通じて影響が広がる乗数効果にも注意が必要だ。
◆内外需ともに景気回復の足取りが心許ない中で新型肺炎の影響が加わった結果として、当面の企業業績は下方修正を余儀なくされている。それにもかかわらず、米国を中心として世界の株式市場は底堅さを維持している。その背景は偏に、金融緩和の威力が発揮されているということに他ならない。この文脈において、景気が相対的に底堅く、かつ、新型肺炎の影響も相対的に軽微とみられる米国の金融政策動向には注意が必要だ。
◆FRBパウエル議長は既に、7月以降に資産購入プログラムを縮小する方針を示している。このことは直ちに米国金融市場の混乱を意味するわけでは当然ない。しかし、FRBが流動性供給を縮小する時期を迎えてもなお景気回復の目途が立っていない国には、金融市場を通じて経済活動への下押し圧力が加わる可能性に注意しておく必要があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
2019年10-12月期GDP一次速報
駆け込み需要の反動減で大幅マイナス成長(前期比▲1.6%、前期比年率▲6.3%)
2020年02月17日
-
徹底検証:消費増税と対策の影響分析
所得効果・代替効果と世代別影響・産業別影響を網羅的に精査
2019年09月18日
-
2020年の日本経済見通し
成長再加速に向けて鍵を握る、グローバルな製造業の回復シナリオ
2019年12月19日
-
中国:新型肺炎で成長率4%台へ落ち込みも
SARSの教訓が示唆する早期制圧の重要性と終息後の戻りの速さ
2020年01月29日
-
新型肺炎で日本経済はマイナス成長の恐れ
新型肺炎が拡大・長期化すると実質GDP成長率を1%pt以上押し下げ
2020年02月06日
-
2020年 世界経済のリスク分析
「適温経済」シナリオに潜む落とし穴を検証
2020年01月24日
同じカテゴリの最新レポート
-
日本経済見通し:2025年8月
経済見通しを改訂/トランプ関税の影響に引き続き警戒
2025年08月22日
-
第226回日本経済予測
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年08月21日
-
主要国経済Outlook 2025年8月号(No.465)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年07月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日