日本経済見通し:2020年2月
新型コロナ問題の本質 / 業績悪化懸念下でも株高現象の正体
サマリー
◆新型肺炎が経済活動に与える打撃が復元可能な範囲にとどまるか、不可逆な規模となるかは、事態の収束速度に依存する。リスク回避的な経済主体を仮定すれば、不確実性の高まりはすなわち、経済活動を縮小均衡に導く可能性を高める。従って現時点では最終的な経済への打撃規模を予見することは不可能だ。事態の展開を見守りつつ、経済活動が縮小均衡に陥るのか否か、確率分布の変化を注視せざるを得ない。そこで本稿では、大胆な仮定を極力排除し、新型肺炎が日本経済に及ぼす影響について論点整理を試みる。
◆既に発生している1-3月期の中国における操業停止を受け、日本企業の現地法人売上が6,852億円程度減少し、営業利益は2,065億円、純利益は1,626億円減少する可能性がある。日本からの輸出は2,880億円減少し、国内生産も590億円減少する懸念が大きい。中国からの訪日外客が100万人減少すると旅行サービス受取額を2,000億円程度押し下げる。さらに日本人の消費および第三国向け需要の減退が加わる。こうした直接的影響に加え、二次的に雇用や設備投資を通じて影響が広がる乗数効果にも注意が必要だ。
◆内外需ともに景気回復の足取りが心許ない中で新型肺炎の影響が加わった結果として、当面の企業業績は下方修正を余儀なくされている。それにもかかわらず、米国を中心として世界の株式市場は底堅さを維持している。その背景は偏に、金融緩和の威力が発揮されているということに他ならない。この文脈において、景気が相対的に底堅く、かつ、新型肺炎の影響も相対的に軽微とみられる米国の金融政策動向には注意が必要だ。
◆FRBパウエル議長は既に、7月以降に資産購入プログラムを縮小する方針を示している。このことは直ちに米国金融市場の混乱を意味するわけでは当然ない。しかし、FRBが流動性供給を縮小する時期を迎えてもなお景気回復の目途が立っていない国には、金融市場を通じて経済活動への下押し圧力が加わる可能性に注意しておく必要があるだろう。
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