サマリー
◆中東情勢の混乱が続く中、わが国が円安と物価高・実質賃金低下の悪循環から脱したとは言い難い。円の実質実効レート(日本銀行発表、2020年=100とした指数)は、2026年2月時点で67.03と、1964年以来の歴史的な円安水準であり、1964年以降の平均値(112.76)からは約4割安の水準にまで落ち込んでいる。中東情勢の混乱等の地政学リスクの高まりも、原油高や「有事のドル買い」等を通じて円安・ドル高を助長することとなろう。
◆最近の円安・ドル高進行の根底には、高市政権の拡張的な財政政策への警戒感がある。わが国で実質賃金が低下してきた原因は、労働生産性の低迷や労働時間の減少といった構造的なものである。しかしながら、政府はこうした構造問題に十分に手を付けることなく、対症療法的な弥縫策を繰り返している。今後についても円安と物価高・実質賃金低下の悪循環が継続するリスクに要注意であろう。
◆今後、わが国に求められる政策対応は、以下の5点である。第一に、財政資金投入によるエネルギー価格の抑制や減税といった弥縫策に頼り続けるのではなく、省エネを進めエネルギーの中東依存度を引き下げると同時に、わが国の潜在成長力や労働生産性を高めるような「王道」の経済政策を強化するべきだ。第二に、中東情勢の混乱がある程度長期化することを前提に、今後の中東情勢に関する複数のシナリオを設定した上で、場当たり的な対応を回避し、危機管理を強化することが肝要である。例えば、中東情勢の混乱により、石油や天然ガス由来の化学製品、医療品、建築資材など幅広い分野におけるサプライチェーンのどこで「目詰まり」が生じるリスクがあるのかを精査した上で、ピンポイントでの支援策等を講じるべきだ。第三に、外交の基本的なスタンスとして、米国のトランプ政権一辺倒ではなく、多国間主義を基軸に据える必要がある。第四に、日本銀行には中東情勢等を慎重に見極めつつ、「金融政策の正常化」に向けて着実な利上げを実施することが期待される。第五に、政府の「円安容認」とも取れるスタンスにも修正の余地があるのではないだろうか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
日本の長期金利、2035年に5%台の可能性
2035年に3.5~4.2%程度で、海外保有拡大で1%pt超の上乗せも
2026年10月16日
-
なぜ企業は同じ情報を何度も提出しなければならないのか
公的統計のデジタル化を問う①-負担軽減の「効果」
2026年10月16日
-
2026年8月機械受注
製造業・非製造業(船電除く)のいずれも2カ月ぶりに増加
2026年10月15日
最新のレポート・コラム
-
一括取得型自己株式取得(ASR)入門
ASRに関する基本的な事項をQ&A形式で解説
2026年10月16日
-
「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」における金融経済教育に関する記述
金融経済教育関連に限ると、大幅な拡充は行われない方向性か
2026年10月16日
-
日本の長期金利、2035年に5%台の可能性
2035年に3.5~4.2%程度で、海外保有拡大で1%pt超の上乗せも
2026年10月16日
-
なぜ企業は同じ情報を何度も提出しなければならないのか
公的統計のデジタル化を問う①-負担軽減の「効果」
2026年10月16日
-
成長投資の先にあるもの ~AI時代に問われる「組織能力」~
2026年10月16日
よく読まれているリサーチレポート
-
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
-
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
-
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
-
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
-
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日

