サマリー
◆「AI時代の日本の人的資本形成」と題する本レポートシリーズでは、3回に分けて、AI時代の到来と日本型雇用の変容という新たな局面において、いかにして人的資本を形成し、変化の波を乗りこなしていくべきかという論点に対し、具体的な戦略的視座およびアクションプランを提示する。
◆最後となる第3回目の本レポートでは、生成AI時代における日本の人的資本戦略の方向性を示すため、「政府」に焦点を当てて現状の政策と構造的課題を分析し、具体的なアクションプランを提言する。
◆現状、日本では政府が「人への投資」を強化している。しかし、歴史的に企業主導のOJT(On-the-Job Training、職場内訓練)が主流であったこともあり、訓練への公的支出の割合は低い。この点は、個人の主体性や訓練の質・市場適合性を重視する諸外国の政策設計と異なる。
◆さらに構造的課題も存在する。具体的には、AI戦略策定プロセスでの労働者視点の欠如、企業経由の支援への偏重、個人主導の学びを妨げる要因(市場の失敗や制度の複雑さ)が挙げられる。また、非正規・若年層へのアクセス格差、訓練の質保証と効果測定(EBPM:証拠に基づく政策立案)の大きな改善余地も指摘できる。
◆これらの課題に対し、①AI戦略への労働者視点の統合、②個人学習勘定導入の検討や所得保障強化による、個人の主体的な学びの徹底支援、③包摂的なアクセス確保、④訓練成果の可視化と市場適合性向上によるEBPMの確立、⑤AIを活用した労働政策の一層の強化、が急務である。
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