サマリー
◆国際的に見ると、日本企業はOJTを含め、労働者の教育・訓練をあまり実施していない。同時に、日本の労働者は学習などに消極的かつ、キャリアの自律性も高くない。この背景として、現場における長時間労働を伴う試行錯誤を通じて、企業特殊的技能を中心とした技能形成が実施されてきた可能性が指摘できる。
◆こうした日本型の技能形成システムは、実戦的な技能の向上や教育・訓練費用の節約という意味では一定の効果があったかもしれない。しかし、このような従来型の技能形成は持続困難になりつつある。まず、働き方改革による新たな残業時間制限は、現場の試行錯誤を通じた技能形成をやりづらくする。さらに、転職市場の活発化は、企業が若手従業員に教育・訓練を施しても、その従業員がより良い条件を求めて他社に転職してしまうリスクを高めている。そして、生成AIなどのデジタル技術の進歩は、労働者に求められるスキルセットを大きく変容させている。
◆これらの変化は、日本型雇用システムに変革を迫る要因となり得る。既に、大手企業の若手社員においては、上司や先輩の指導を通じたOJTやOff-JTなどの教育・訓練機会が減少し、離職率も高止まりしている。こうした一連の動向は、日本の労働市場の一部が、転職率が高く、転職時の給料アップが期待できる一方、企業内教育・訓練はそこまで盛んではない、とされるアメリカ型に近づきつつある可能性を示唆している。
◆ただし、日本の労働市場は必ずしもアメリカ型を目指すべきものではない。こうした構造変化に対応するため、企業には、AI時代に求められるデジタルスキル等を軸とした戦略的な人材育成への積極投資と、従業員が習得したスキルを最大限発揮できるような職務環境の整備、および市場価値を反映した報酬体系への見直しなどが一層求められる。一方、政府には、個人の主体的な学び直しを促進するリカレント教育の拡充など、個人を動機付けする包括的な支援策の構築が期待される。
(※)本文中に記載されている製品名、サービス名等は各社の登録商標または商標です。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
生成AIが描く日本の職業の明暗とその対応策
~AIと職業情報を活用した独自のビッグデータ分析~『大和総研調査季報』2024年春季号(Vol.54)掲載
2024年04月25日
-
生成AIが日本経済に与える影響の計量分析
経済成長を促進するも格差拡大の懸念。リスキリング等の対応が鍵に
2024年11月08日
同じカテゴリの最新レポート
-
消費データブック(2026/3/5号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2026年03月05日
-
2025年10-12月期法人企業統計と2次QE予測
AI需要が企業収益をけん引/2次QEでGDPは上方修正へ
2026年03月03日
-
2026年1月雇用統計
失業率は2.7%と5カ月ぶりに上昇
2026年03月03日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
-
理系進路選択に対する男女差の要因分析
女性の理系人材を増やすには、より早期段階での介入や対応が必要
2026年02月06日
-
2026年の東証改革の方針
上場会社の質の向上と新陳代謝を促進する市場機能の強化
2026年02月02日
-
高市政権の財政政策は更なる円安を招くのか
財政支出の拡大ショックは翌年の円安に繋がる
2025年12月18日
-
第228回日本経済予測
第2次高市政権の重点政策、どう進めるか①外国人労働者受け入れ、②消費減税/成長・危機管理投資、を検証
2026年02月20日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
理系進路選択に対する男女差の要因分析
女性の理系人材を増やすには、より早期段階での介入や対応が必要
2026年02月06日
2026年の東証改革の方針
上場会社の質の向上と新陳代謝を促進する市場機能の強化
2026年02月02日
高市政権の財政政策は更なる円安を招くのか
財政支出の拡大ショックは翌年の円安に繋がる
2025年12月18日
第228回日本経済予測
第2次高市政権の重点政策、どう進めるか①外国人労働者受け入れ、②消費減税/成長・危機管理投資、を検証
2026年02月20日


