岐路に立つ日本の人的資本形成

残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革

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2025年01月09日

サマリー

◆国際的に見ると、日本企業はOJTを含め、労働者の教育・訓練をあまり実施していない。同時に、日本の労働者は学習などに消極的かつ、キャリアの自律性も高くない。この背景として、現場における長時間労働を伴う試行錯誤を通じて、企業特殊的技能を中心とした技能形成が実施されてきた可能性が指摘できる。

◆こうした日本型の技能形成システムは、実戦的な技能の向上や教育・訓練費用の節約という意味では一定の効果があったかもしれない。しかし、このような従来型の技能形成は持続困難になりつつある。まず、働き方改革による新たな残業時間制限は、現場の試行錯誤を通じた技能形成をやりづらくする。さらに、転職市場の活発化は、企業が若手従業員に教育・訓練を施しても、その従業員がより良い条件を求めて他社に転職してしまうリスクを高めている。そして、生成AIなどのデジタル技術の進歩は、労働者に求められるスキルセットを大きく変容させている。

◆これらの変化は、日本型雇用システムに変革を迫る要因となり得る。既に、大手企業の若手社員においては、上司や先輩の指導を通じたOJTやOff-JTなどの教育・訓練機会が減少し、離職率も高止まりしている。こうした一連の動向は、日本の労働市場の一部が、転職率が高く、転職時の給料アップが期待できる一方、企業内教育・訓練はそこまで盛んではない、とされるアメリカ型に近づきつつある可能性を示唆している。

◆ただし、日本の労働市場は必ずしもアメリカ型を目指すべきものではない。こうした構造変化に対応するため、企業には、AI時代に求められるデジタルスキル等を軸とした戦略的な人材育成への積極投資と、従業員が習得したスキルを最大限発揮できるような職務環境の整備、および市場価値を反映した報酬体系への見直しなどが一層求められる。一方、政府には、個人の主体的な学び直しを促進するリカレント教育の拡充など、個人を動機付けする包括的な支援策の構築が期待される。

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