「ジョブ型人事」普及で円滑な労働移動は実現するのか?

民間企業の取り組みにも増して政府のイニシアティブ発揮が不可欠

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2024年10月30日

サマリー

◆岸田文雄前政権が打ち出した「三位一体の労働市場改革」は、石破茂政権にも引き継がれている。同改革の柱の一つである「ジョブ型人事」の普及には足元で進展が見られ、内閣官房などは2024年8月28日に導入事例集にあたる「ジョブ型人事指針」(以下、「指針」)を発表した。ジョブ型人事の下では職種別に報酬水準が定まり、採用されるため、転職にかかる透明性の向上や外部労働市場の活性化につながることが期待される。

◆「指針」によると、ジョブ型人事を導入した先行20社は職種や役割に紐づける形で等級・報酬制度を構築している。報酬面では家族手当などが廃止される一方、行動評価などにより属人的な要素も加味される。社内での円滑な労働移動を促すにあたり、社内公募制の拡充や、社員の自律的なキャリア意識や専門スキルの向上の支援なども行われている。人事制度を運用する権限を各事業部門に移管している点も特徴的だ。

◆こうしたジョブ型人事の取り組みは、個社レベルでは人材獲得にかかる競争力の向上や、柔軟な人材配置の実現などで成果を上げている。しかし、円滑な労働移動を促すような職務やスキル、報酬水準の「標準化」が大きく加速しているとはいい難く、ジョブ型人事の更なる普及に向けては人事人材の不足なども課題となる。職業情報のインフラ整備や、職業訓練の質と量の改善などへの政府の積極的な取り組みが不可欠だ。

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