サマリー
◆シリーズレポート第2弾となる本稿では、法人税率の引下げがどのような波及経路を通じて実体経済に影響をもたらすのかを整理し、法人税減税による国内企業設備投資への影響を定量的に検討した。また、投資税額控除の場合との比較も行った。
◆法人税率の引下げが経済にもたらす効果は、①資本収益率の改善、②キャッシュフローの増加、③企業の立地選択への影響、④財政収支への影響、の4つに整理できる。財政収支への影響は他の3つの効果が出現した結果であり、税収の見積り次第で財政収支への影響はマイナスにもプラスにもなりうる。
◆法人税率を10%pt引き下げて企業の設備投資を刺激するシミュレーションを行ったところ、設備投資の水準は法人税減税を実施しないベースシナリオに比べて最大で2.5%程度上回り、実質GDPは0.3%強上回るという結果を得た。財政収支のGDP比はベースシナリオに比べて1%pt強の悪化となった。
◆既存の経済構造を前提とすると、実質GDPは企業が減税によって追加的に得たキャッシュフローほどは増加しない。法人税減税が企業マインドを大きく変化させて設備投資をダイナミックに増加させるためには、制度・規制改革や企業の経済見通しの好転、コーポレート・ガバナンスのあり方の見直しといった変化を想定する必要がある。
◆設備投資を拡大させることが目的であるなら、財政負担の面で投資減税の方が優れている。マクロモデルで試算すると、投資税額控除は法人税率引下げの約5分の1の財政負担で同様の効果を生むとみられる。ただし、投資減税は設備投資が多い資本集約型の産業や企業に有利となることは否めない。また、投資減税はそれが既得権益化しないよう、時限的でなければならない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本の成長力はどうなるか
日本経済中期予測(2014年8月)2章、3章
2014年08月13日
-
日本経済中期予測(2014年8月)
日本の成長力と新たに直面する課題
2014年08月04日
-
法人税率引下げの財源問題
財政健全化目標との両立を図った法人税率引下げが必要
2014年07月25日
-
法人税減税と日本経済
財政への影響を含めたマクロ・シミュレーション
2014年06月26日
-
法人税減税と企業の立地選択
法人税率引下げが対外・対内直接投資にもたらす影響の大きさ
2014年06月18日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
米金融政策を占うジャクソンホール会議の注目点は?
市場が期待するほどの大幅な利下げの示唆は期待しにくい
2024年08月16日
-
ハリス氏はトランプ氏に勝てるのか?そして、米国経済の行方は?
トランプ氏の優勢は継続、トランプ・リスクの発現は議会選挙とトランプ氏の匙加減次第
2024年08月02日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「国債買入減額」と「追加利上げ」が長期金利と経済活動に与える影響は限定的か
2024年7月金融政策決定会合で日銀は金融緩和の縮小姿勢を明確化
2024年07月31日
-
「適温」なドル円相場は130円台?
ただし10円の円高で実質GDPは0.2%悪化
2024年08月14日
米金融政策を占うジャクソンホール会議の注目点は?
市場が期待するほどの大幅な利下げの示唆は期待しにくい
2024年08月16日
ハリス氏はトランプ氏に勝てるのか?そして、米国経済の行方は?
トランプ氏の優勢は継続、トランプ・リスクの発現は議会選挙とトランプ氏の匙加減次第
2024年08月02日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「国債買入減額」と「追加利上げ」が長期金利と経済活動に与える影響は限定的か
2024年7月金融政策決定会合で日銀は金融緩和の縮小姿勢を明確化
2024年07月31日
「適温」なドル円相場は130円台?
ただし10円の円高で実質GDPは0.2%悪化
2024年08月14日