法人税減税と企業の立地選択
法人税率引下げが対外・対内直接投資にもたらす影響の大きさ
サマリー
◆注目されている安倍内閣の成長戦略において、法人税改革は目玉政策の一つである。もっとも、法人税改革には様々な論点があり、具体的・詳細な議論は当面続くとみられる。そこで、数回にわたり、法人税改革に関するシリーズレポートを公表したい。
◆日本の法人実効税率は2014年度から34.62%に下がったが、主要な輸出競争相手国であるドイツや韓国と比べて依然として高く、ましてや主な対外直接投資先の1つである中国に比べるとかなり高い。法人税率は企業が立地を選択する際の1つの要素に過ぎないが、法人税率が対外・対内直接投資に一定の影響を与えていることは確かだと考えられる。問題はその影響がどの程度の大きさかである。
◆パネルデータを用いた本稿の分析によると、日本の法人実効税率が1%pt引き下げられた場合、日本の対外直接投資は2.9%抑制され、対内直接投資は3.5%拡大する。
◆対外直接投資が抑制される分の資金は、事業活動を行う魅力が高まった日本国内で投資され、国内の設備投資や事業買収、起業などが活性化すると考えられる。現時点で、仮に法人実効税率が10%pt引下げられると対外直接投資額が3割減り、これは国内の民間企業設備投資の5%弱程度に相当する。
◆1%ptの税率引下げが与える影響は、変化率でみると対内直接投資の方が対外直接投資よりも大きいが、現在の対内直接投資の規模が小さいため変化額でみれば対内直接投資への影響は小さい。対外直接投資関数と同様の説明変数で推定された対内直接投資関数の全体的な説明力は対外直接投資関数に比べて低く、起業のしやすさなど税制以外の制度的要因も対内直接投資を拡大させていく上で重要であると考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
2014年08月13日
日本の成長力はどうなるか
日本経済中期予測(2014年8月)2章、3章
-
2014年08月04日
日本経済中期予測(2014年8月)
日本の成長力と新たに直面する課題
-
2014年07月25日
法人税率引下げの財源問題
財政健全化目標との両立を図った法人税率引下げが必要
-
2014年06月26日
法人税減税と日本経済
財政への影響を含めたマクロ・シミュレーション
-
2014年06月25日
法人税減税と国内設備投資
法人税率引下げが投資に与える効果のシミュレーション
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年02月25日
量的緩和政策下の金融調節
金融調節から非伝統的金融政策を考える②
-
2021年02月25日
認知機能の低下と資産管理(1)
既に認知機能が低下している場合の対応
-
2021年02月25日
増加する介護保険料②
限界が見えてきた健保組合等の加入者の負担
-
2021年02月24日
脱炭素化政策の国際比較に見る日本の課題
新規産業育成や硬直的な日本労働市場への対応が重要
-
2021年02月25日
コロナ危機と選挙の関係~米欧編~
よく読まれているリサーチレポート
-
2020年12月17日
2021年の日本経済見通し
+2%超の成長を見込むも感染状況次第で上下に大きく振れる可能性
-
2020年12月30日
東証市場再編の概要とTOPIXの見直し
影響が大きそうな流通株式の定義の変更
-
2020年04月13日
緊急経済対策の30万円の給付対象者概要と残された論点
ひとり親世帯や年金を受給しながら働く世帯などに検討の余地あり
-
2020年12月28日
改正会社法施行規則 取締役の報酬等の決定方針
-
2020年08月14日
来春に改訂されるCGコードの論点
東証再編時における市場選択の観点からも要注目