2022年06月01日
サマリー
◆世界各国・地域の中央銀行において、CBDCの発行に向けた研究・開発が積極的に進められている。本稿では、海外の動向を踏まえながら、日本銀行の実証実験の現状と注目点を整理する。また、今後、先進国がCBDCの正式発行を決断する際に重要な争点となる、リテール型CBDCを発行する必要性について考察する。
◆現在、経済発展で後発の新興国がCBDCの研究・開発や正式発行で先進国より先行しているという構図にある。経済規模の大きい主要国の中では、中国のデジタル人民元が最も先行しており、今後正式発行に踏み切るのか、世界的な関心が高まっている。世界で有数のキャッシュレス先進国であるスウェーデンは、国内のキャッシュレス化の成功が予期せぬ逆風となっている点が注目される。
◆日本銀行は、3つの段階からなるCBDCの実証実験を行っており、2022年4月に、第2段階の「概念実証フェーズ2」へと移行した。第1段階のフェーズと異なり、このフェーズの主な検証事項の中には、利用者側の家計と企業の利便性や銀行と決済サービス事業者の収益などに影響を及ぼし得る項目が複数あるため、その関係主体は、今後適宜フォローしておくことが重要となる。
◆先進国では、「金融包摂」の向上に関するCBDCの恩恵は相対的に大きくないと考えられ、現時点で日本銀行がCBDCを発行する明確なメリットは限られるという意見も少なくない。一方、長期的にみると、自国のCBDCには各種デジタルマネーの金銭的価値の拠り所となる「アンカー」という役割に加え、民間デジタルマネーや他国のCBDCに対する「牽制役」としての機能が期待される。とりわけ米国では、中国の動向が大きな鍵を握るとみられる。
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