生成AIを用いた人的資本スコア算出の試み

有価証券報告書から人的資本開示を定量的に評価する手法を開発

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サマリー

◆本稿では、有価証券報告書における人的資本開示の「質」と報告書内での「内部整合性」を定量的に評価するために、生成AIを活用した「人的資本スコア」を開発した。その上で、このスコアの妥当性を検証するとともに、企業の財務パフォーマンスとの短期的な関係を統計的に分析した。

◆スコア算出に用いた生成AIへの指示(プロンプト)は、大和総研のこれまでの調査・分析や金融庁の公表資料等を踏まえて設計した。評価の核となるのは、企業価値との結びつきやKPI設定を問う「人的資本開示の質」と、経営課題や事業リスクの認識との一貫性を測る「報告書内の内部整合性」である。これにより、開示内容を多角的かつ客観的に評価した。

◆スコアは保険業や銀行業、プライム市場上場企業で高い傾向が見られた。さらに開示義務化から三期目に入り、全体的に開示の質が向上している傾向も示された。加えて、外部のESG評価機関の評価を基にした「JPX日経インデックス人的資本100」に選出された企業は、本稿で算出された人的資本スコアが高い傾向があった。このため、本稿で算出した人的資本スコアは一定の信頼性・妥当性を持つと評価できる。

◆一方で、人的資本スコアと翌期のROA(総資産利益率)やPBR(株価純資産倍率)といった短期的な財務パフォーマンスとの間に、統計的に因果を示唆する頑健な関係は見出されなかった。単純な相関関係が一部で見られたものの、業種特性などの影響を考慮するとその有意性は失われ、「見せかけの相関」である可能性が示唆された。

◆本稿の意義は、これまで評価が難しかった人的資本開示の質を、生成AIを用いて客観的かつ効率的に測定する手法を提示した点にある。人的資本投資の効果が財務に結実するには時間がかかると考えられ、今後はデータの蓄積を待ち、より長期的な視点での因果関係の検証が不可欠である。本スコアは、そのための客観的な評価基盤を提供する第一歩となるだろう。

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